0. 銀河巡礼 Starry Sky Cycle

銀河巡礼

Starry Sky Cycle




 全天 88の星座に捧げられたピアノ連作曲集《銀河巡礼》はエストニアの作曲家ウルマス・シサスク Urmas Sisaskによって 1980年ごろ書き始められ、2018年に完成するまで、およそ 40年の歳月をかけて作曲されました。シサスクのまさにライフワークであるといって良いと思います。


銀河巡礼 88星座

 《銀河巡礼》には、上記画像にある 4集のほかに、実は「古代エストニア民俗の星空」Ancient Estonian Starry Sky Op. 94という 2台ピアノのための曲集(第3集)があり、《銀河巡礼》は全5集から成る曲集ということになります。
 88星座はピアノ独奏用の「北半球の星空」Op.10、「南半球の星空」Op. 52、「赤道の星空」Op. 155、「北極の星空」Op. 160で網羅していますが、シサスクは母国エストニアで古くから親しまれてきた星たちにもこだわりがあるのでしょう。
 星座というと、星占いを思い浮かべる方が多いと思いますが、それは太陽の通り道にある 12の星座(黄道十二宮)についてだけの話です。星座ははじめ、ギリシャの天文学者プトレマイオスが書物(西暦150年頃)に挙げた 48星座でしたが、その後、付け加えられて合計 88となっています。大昔は占星術も天文学に含められていたようですが、現在では「星座」とは境界線で区切られた星空の "領域" を示すに過ぎません。境界線は 1930年に国際天文学連合によって明確に定められました。各星座の領域にはさまざまな天体(恒星、銀河、星団など)が含まれていて、星座の位置はそうした天体を探し出すための目印のような役割をしています。 

 一番上の図は、インターネット上で見つけた 88星座の平面図です。
Detailed star map with names of stars, contellations and Messier objects, black and white vector.  Download from Dreamstime.com(購入済)

 星座図はふつう球体をイメージした図で表すかと思いますが、88星座を無理やり載せるとこうなります。蛇行する川のように見えるグレーのラインは天の川です。こうして眺めると、星座は随分とひしめき合っているように見えます。しかし、星座は平面にあらず! 星座を形作るそれぞれの星は地球からの距離がまちまちで、実際には互いに無関係であることが多いのです。宇宙の果てしない奥行きを想像してみてください。 
 シサスクは毎晩のように天体望遠鏡で観測を続けているといいます。彼の頭の中には、すべての星座の位置が正確にインプットされています。《銀河巡礼》の楽譜には、天文に詳しい人が見ても驚くような詳細な星座図(メシエ天体、NGC天体なども専門的に)が書き込まれています。
 シサスクは占星術にはまったく興味がなく、でもだからと言って、誰もが彼ほど天文に詳しくはないのもわかっていますから、星座を観察して湧いてくるイメージをサブタイトルで表し、更には神話や伝説を取り入れて宇宙の魅力を伝えるための工夫をしたり、世界各地に実際に足を運び、人と星との繋がりを肌で感じています。自ら演奏することもあれば、語りを担当したり、星の映像を音楽に合わせることもあり、きっとこれまで数多くの一般の人たちと時間を共有し、アイデアも得てきたと思います。私は彼とコラボレーションした経験がありますが、今後行うコンサートでは、彼がやろうとしていることになるべく近づけたいですし、経験を最大限、生かしていきたいと思っています。 
 このブログでは、各星座の領域(空間)にどんな美しい天体があるのか、それをNASA の画像をお借りして綴ってみようと思いつきました。NASAのギャラリーから今回のチクルスのリーフレットに「オリオン大星雲」の画像をお借りできたことがきっかけでもあります。NASAの画像はこのブログにも自由に載せてよいということです。なんと素晴らしいことでしょう! まるで天体を発見しにいくような気分ですし、書き進めるうちに星座に対する想いも変わることと信じます。


背景は「オリオン大星雲」
 
  それでは 88星座を訪れる銀河巡礼のスタートです!


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