1. みずがめ座 Aquarius

水瓶座 Aquarius

夢 Dream




  《銀河巡礼〜北半球の星空》は 1980年〜87年、7年間もの年月をかけて書かれました。シサスク20歳〜27歳頃ということになります。彼の母国エストニアは 1991年に独立回復となるまで、ソ連に併合されていました。
 《銀河巡礼〜北半球の星空》に付随する物語の「結び」にこんな一節があります。
もし今、大砲の後ろで見張っている人が、ただ一度でも星空を見上げたなら、戦争の無益さを感じ、戦争は永遠に終わるのではないだろうか。 (エストニアの天文学者ヤーン・エイナスト Jaan Einasto)
                  
 物語の「序文」にはこうあります。
地球を含む宇宙の天体時計は、我々の想像を超える一貫性を持って、北極星の周りをおよそ 2万年という膨大な年月を費やして回転している。天体の動きに注意深い観察力を持っていた太古の種族たちは、特別な周期運動に注目し、驚きと崇敬の念をもって星空を見つめてきた。地球上の荘厳な一年の巡り、循環は宇宙にも同じように存在し、一日の再生と春の復興は永遠に続いていく。

 そしてみずがめ座には、こう記してあります。(要約)
黄道十二宮には太陽や月、惑星の軌道が横切っている。春分の日に太陽が位置する星座は、二千年ごとに変わり、21世紀はこれまでのうお座から、みずがめ座に変わっていく。これからの二千年への人類の夢と期待を表し、第1章「みずがめ座」が始まる。
 シサスクのみずがめ座のイメージは「夢」。何気ないタイトルにも思える「夢」ですが、その後も深い意味を持つようになっていきます。
 シサスクの最初の本格的な作品となった連作ピアノ曲集《銀河巡礼〜北半球の星空》は、ソ連の支配がいつまで続くのかわからない 20世紀末に、子供の頃からの宇宙への想いを変えず、平和への強い思いまでも結実させた傑作といえるでしょう。
 天体望遠鏡での観測を趣味としていた祖母の影響も大きく、美しいものに無我夢中になる純粋な心や、幼い頃から数字に強かったという素質などが相まって、天文学者への道も考えたシサスクでした。
 14歳のある夏の日(1975年 8月)のことです。1台のグランドピアノが翌日の修理に出すため、一晩だけ外に置いてありました。彼がそのピアノを弾き始めると、夜空はやがてとてつもなく大きな天の川に覆われ、とりわけカシオペヤ座が彼を魅了しました。星々に抱かれながらイメージはみるみる音に変わり、初めての星座の曲「カシオペヤ座」が生まれたのです。カシオペヤ座の浮かぶ天の川から降り注ぐ「ペルセウス流星群」を仰ぎ見るうち、彼の心には全天 88星座をピアノ音楽に書き表したいという特別な願いが浮かびました。新しき夢へ、大きく舵が切られたのです。
 このブログでは、シサスク自身が天体望遠鏡で見たであろう天体(楽譜の星座図に書き込みのあるもの)を探し、よく視ることで、音楽のインスピレーションやサブタイトルのイメージがどこから来たのかを感じ取っていきたいと思っています。なぜならシサスク「すべての人に本物の星空を見て欲しい」と願っているからです。
 みずがめ座に書き込まれている特色ある天体は、まず冒頭の写真。
 これは、カタログナンバー NGC 7293(惑星状星雲)です。数ある惑星状星雲の中でも飛び抜けて大きいそうで、「らせん状星雲」の愛称でも親しまれています。見かけの大きさは満月の半分以上あり、双眼鏡でも見えるそうです。
 そのほかに 2つの天体があります。一つは、土星状星雲 NGC 7009 で、中心の星からは色のついたガスが出ているとか。

 
 もう一つは 球状星団 M2 で、数十万個の星が集まっているそうです。


 シサスクのみずがめ座の音楽では、左手の 2種類の和音が行ったり来たり、最後までその動きが時を刻むように持続します。写真のような美しい色彩の星雲や星団が、雲のようにふんわりと浮いている様子、あるいは散開星団のガラスのような星の煌めきが、右手のゆらぐような動きや時折ピーンとはじけるようなアクセントで表現されているようです。神秘的に調和する響きは、暗黒の世界に思える宇宙に「色」が存在するかもしれないことを教えてくれます。音域やダイナミクスの幅広さは宙の深淵さを思わせ、1曲目から聴く者をすぐさま星空の奥へ奥へと引き込んでいきます。

画像下の文字をクリックすると NASAのページにリンクします。)







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