6. くじら座 Cetus

鯨座  Cetus

切望  Yearning


 くじら座の初版楽譜に描かれている星座図には、この天体 NGC 246(惑星状星雲)のみが記されています。くじら座の領域にはメシエ天体 M77もあるのですが、まさかシサスクがそれを書き忘れるわけはないと思いつつ、もしかしてシサスクにとってはこちらの天体の方がインパクトが強いのかなと解釈しておきたいと思います。
 この天体 NGC 246 は Skull Nebula とも呼ばれています。日本語では「頭蓋骨星雲」「どくろ星雲」、「脳みそ星雲」と訳されています。なんとも不気味ですが、死にかけている(正確には死にかけている星々を取り囲んでいる)天体なのです。

 ギリシャ神話では、くじら座岩につながれたアンドロメダ王女を喰おうとした怪物です。星座の絵図を見ると、頭と前足は猛獣のようで後ろ足は無く、尾だけがクジラの尾に似ています。 

 そんな怪物の心臓部に「ミラ」Mira という星があります。「ミラ」は脈動変光星で、くじら座といえば「ミラ」というほどよく知られています。その発見は 1596年に遡り、ラテン語で「不思議」という意味の「ミラ」と命名されました。ミラは約 11ヶ月の周期で収縮したり膨張したりして明るさを変えます。最も収縮した直後に高温となって光度が極大(最高 2等星)になり、膨張するときはその逆になって光度が低下(最低 9等星)するとのことです。9等星まで落ちるということは 500分の1の明るさになるということで、肉眼では見えない時期が何ヶ月にも及ぶそうです。  



 ミラには彗星のような尾があり、長さはなんと全長 13光年にわたるとか。この尾はミラが収縮するときに放出された星の外層部の残骸だそうです。


 シサスクのくじら座のイメージは「切望」。

 なぜでしょうか。この答えはこの曲に付随している有名なカレワラ伝説「ヴァイナモイネンの膝の傷」にあるように思います。

 私はミラの尾を引く光や心臓のような収縮からピンときました。年老いた魔術師ヴァイナモイネンが故郷に帰る途中で斧で膝を切り、血が止まらなくなったという話と見事に重なるのです。魔術師なのに血を止める呪文を知らず、さまよい歩いてやっとその呪文を知る老人を見つけるという伝説なので、「切望」のイメージ。

 でも伝説ありきでないとすれば、「ミラ」や「頭蓋骨星雲」で命の尽きる様を見て、少しでも命が伸びるという奇跡を切望したのかもしれませんね。

 シサスクのくじら座の音楽では、変光星の収縮と膨張、不思議さが見事に表現されていると思います。左手の同音の反復する和音進行は弱々しくなった心臓の鼓動、三連符の不穏な跳躍は死への不吉な動揺を感じさせ、コーダの静かな同音連打はミラの消えゆく尾、あるいはヴァイナモイネンの膝の出血のようです。地上にも宇宙にも生と死があることを教えてくれ、心揺さぶられます。

 さて、くじら座のイメージがやや暗いものとなってしまいましたが、ここで折角ですから、くじら座で唯一のメシエ天体 M77を NASA画像からお借りしましょう!



 どうですか? なんと美しく、希望とエネルギーに満ちた渦巻銀河でしょう! こんな銀河があるのをもしやわざと隠しておきましたか?!

  命尽きた時、天上でこのような美しい銀河に巡り合えることを切に望みます





 

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