8. うしかい座 Boötes

牛飼い座  Boötes

渦  Vortex

Barnard 68(ESO:ヨーロッパ南天天文台)

 
 シサスクのうしかい座のイメージは「渦」。

 なぜ「渦」なのか、この曲がどうしてこのような曲想なのか、とても悩みました。結論としては、2つの点を考えました。

 一つ目。説明が大変難しいです。

 うしかい座の領域には銀河がない「超空洞=ボイド void」とよばれる部分があります。このことが発見されたのは 1981年ですから、シサスクが《北半球の星空》を作曲している最中のことです。このころ、宇宙がどういう構造になっているかについて新しい推測がなされました。宇宙には銀河が密集している銀河団、銀河群といった領域もあれば、物質がほとんど何もない領域があります。上の画像の真っ黒な部分は「暗黒星雲」と呼ばれる光を出さない星間雲で、星はほとんどなく、ガスや宇宙の塵が集まっています。 
 うしかい座の方向の 3億光年の彼方には 1億5000万光年に渡って銀河が存在しない領域があり、そこは「うしかい座ボイド」と名付けられました。そのような発見から、宇宙は石鹸を泡だてたような構造になっているという説が生まれました。つまり、宇宙は石鹸を泡だてた時にできる幾重にも積み重なった泡のような構造をしていて、泡の表面に銀河が点在し、泡の中の空洞には銀河が存在しないというイメージです。泡、といっても超巨大な泡です!
 そのことからシサスクは、泡の空洞の「内側」から泡の表面、即ち無数の銀河が渦巻く様子を眺めることを想像したのかもしれないと思いました。上の画像でいうと、真っ黒な部分(平面ではなく空洞と考える)から、星の密集した周囲を 360度、見渡す感じです。(この画像はへびつかい座の方向にある星間分子雲「 バーナード 68 」Barnard 68 という暗黒星雲ですので、あくまでイメージとして参考にしていただきたいと思います。)
 こう考えたきっかけは、彼の音楽からです。シサスクのうしかい座の音楽は、まさに泡がはじけているようでもあるし、絡み合うような動きは網目のようで、それも泡を想起させます。しかし宇宙における泡とは、石鹸の泡とはわけが違います。広大な範囲に散らばった無数の星や銀河の泡は、遠くから見たら一つの大きな「渦」のようにまとまって見えるかもしれません。シサスクのうしかい座は決してスケールの大きな曲ではありませんが、このような事実を空想すると宇宙の謎めいた部分を楽しめると思います。

 二つ目。うしかい座にオレンジ色に輝く大きな一等星、アルクトゥールスに触れないわけにはいきません。



 この美しい写真は、ロッキー山脈と星空です。左側に立ち上がるのは天の川銀河。山脈左端に輝くのは木星。写真のほぼ中央に輝くのが、うしかい座のアルクトゥールス。写真右端には北斗七星が写っています。

 アルクトゥールスはギリシャ語で「熊の番人」を意味する恒星で、太陽の 100倍の光を放っています。恒星はふつう動かない星と言われますが、正確には銀河の回転に乗ってゆっくり動いているそうです。しかしアルクトゥールスはその動きには乗っておらず、それと直交するような移動をしているとのこと。しかも秒速 140キロという凄まじいスピードで動いているといいます。とはいえ、肉眼では 800年でやっと見かけ上の月の直径分だけ位置を変えるという計算だそうで、天文学的数字には常々驚かされます。またアルクトゥールスは星図上で、春の大曲線、春の大三角、春のダイヤモンドを形作る星の一つでもあります。

 「渦」というイメージをアルクトゥールスから絞り出すことは難しいかもしれませんが、アルクトゥールスが猛スピードで動いているという事実からは、シサスクのうしかい座において、音楽的に面白いヒントを十分得られると思います。






コメント

はかせ さんの投稿…
写真の暗黒星雲は、何もない領域ではなく、ガスと塵が濃く集まって背後の星の光を遮って暗く(黒く)見えている領域ですね。
Liblikas さんの投稿…
はかせ様
ありがとうございます。ご指摘いただき、勉強し直して、修正させていただきました。私は音楽専門なものですから、もしも気になる点ありましたら、またご教示ください。よろしくお願いいたします。