17. へびつかい座 Ophiuchus

蛇遣座  Ophiuchus

破滅  Ruin

Snake in the Dark 

 Snake in the Dark ・・確かに蛇のようなシルエットが見えます。蛇星雲、吸光雲とも呼ばれる塵が星の光を吸収してしまい、そこに星があるにもかかわらず、人間の目には星が見えないのだそうです。

 へびつかい座はとても大きな星座ですが、目立つ星がなく、数多の星団や星雲があるのが特徴。シサスクのへびつかい座のイメージは「破滅」と訳しましたが、エストニア語 häving の英訳  ruin には、破壊、荒廃といった意味もあります。この画像を見ていると、周囲の星の色味までもが、このままどんどん無くなっていくような気がして、とても不気味です。

 《銀河巡礼〜北半球の星空》に付随する物語の章立てからもわかるように、シサスクは、おひつじ座「緊迫」、へびつかい座「破滅」の後に、こぐま座「平和」を続けて作曲しています。この 3曲は《北半球の星空》の曲集の中でとても重要な意味を持っていると私は感じています。北半球の星空物語は、シサスクの友人で、民俗学者、生物学者であるミック・サルヴ Mikk Sarv氏が、一つ一つの星座にふさわしい神話や伝説を探して編纂しました。その物語の結びには次のような文章を書いています。

 1987年秋。エストニアのトラヴェレにある天体物理学観測所で「星の夜」というコンサートが開かれました。終演後、天文学者のヤーン・エイナスト Jaan Einasto教授は、ご自身の若い頃の思い出を熱心に語ったそうです。
 1944年、第二次世界大戦の最後の戦闘で、幼い彼は両親と共にエルヴァに避難しました。ある晴れ渡った 8月の夜、小さな望遠鏡で星たちの美しさに見とれながらこう思ったそうです。「もし今、大砲の後ろで見張っている人がただ一度でも空を見上げたら、戦争の無益さを理解し、永遠に戦争が終わるのではないだろうか」と。

 おひつじ座へびつかい座の 2曲は、ド# cis の音を引き継いで切れ目なく繋がっている、と前回書きました。へびつかい座は「緊迫」から突き進んだ戦争の記憶を蘇らせる音楽に思えてなりません。シサスクが北半球の星空を作曲したのは 1980年から 87年にかけてで、エストニアは当時まだロシアから独立しておらず、戦争の記憶は新しかったのです。(このことについてはみずがめ座でも少し触れています。)




 へびつかい座の領域には、画像のような球状星団が 7つもあるといいます。シサスクの星座図にはそのうち 3つのメシエ天体(9、10、12)が書かれています。上の M10 と M12 は並んでいて、双眼鏡で同じ視野に見えるそうです。へびつかい座の曲が終わる瞬間、この光が眼前に突如、強烈に現れる気がしますが、この輝きを「平和」への希望の光にゆっくりと転換し、こぐま座の曲へ移っていきたいものです。




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