48. ちょうこくぐ座 Caelum

彫刻具座  Caelum

寺院への旅  Journey to the Temple


 ちょうこくぐ座肉眼で見るのが難しい暗い星ばかりです。 NASA にはこの ESO 202-G23 の画像しか見つかりませんでした。ちょうこくぐ座は天の川銀河からかなり遠く離れているため、未開の地でもあるのです。上の画像は二つの銀河が衝突した姿とのことです。すでに何億年も銀河の形は歪められたままですが、今後、数十億年かけてノーマルな一つの銀河の形になるだろうと考えられています。


Galaxies in the Caelum constellation(Wikipedia)

 この二つの銀河 NGC 1595 と NGC 1598 はシサスクが自筆の星座図(下図)に書き込んでいるのですが、NASA画像にはないのが残念です。




 
 シサスクのちょうこくぐ座のイメージは「寺院への旅」。

 星座図にはエストニア語で、インド INDIA(寺院 TEMPEL)という書き込みがあります。ちょうこくぐ座の「彫刻具」とは、石工が使うノミのことと言われていますが、インドの寺院といえば石窟寺院でしょう。石工や彫刻家がヒンドゥー寺院の建設に携わり、その多くの建造物が現在、世界遺産にも指定されています。下の写真はインド最南端にある世界遺産の寺院です。


ブリハディーシュヴァラ寺院(Wikipedia)

 シサスクは《赤道の星空》作曲のため、2012年にインド南部のゴア Goa を訪れたと聞いていますので、この寺院は見ていないかもしれませんが、シサスクのちょうこくぐ座のイメージは、こうしたインドの数多の寺院群や石窟群への憧れ、あるいはカルチャーショックから来ているかもしれないと思いました。

 シサスクのちょうこくぐ座の音楽は、「旅のテーマ」=目前に立ちはだかる巨大な寺院のように力強く重厚な前半と、「インドの寺院のテーマ」=ノスタルジックで東洋的な旋律が印象的な後半が対照的で、最後は消えるように終わります。


 ところでシサスクの星座図には書かれていませんが、ちょうこくぐ座には現在、注目を集める天体があります。HE 0450-2958 というクエーサーです。

Quasar HE 0450-2958

 クエーサーとは超巨大質量のブラックホールと考えられていますが、HE 0450-2958 は地球から 50億光年とあまりにも遠すぎるため、その姿をはっきりとらえることができません。

 シサスクが 《赤道の星空》と同時期の 2015年に書いた曲に、左手のためのピアノ協奏曲《Quasars〜宇宙の灯台》Op. 146 があります。その第4楽章になんとこのクエーサー HE 0450-2958 が取り上げられています。楽章構成は次のようになっています。 

第1楽章『序奏』
第2楽章『シャーマンのクエーサーへの旅』
第3楽章『コンパス座の銀河(ESO 97-G13)』
第4楽章『HE 0450-2958』(パッサカリア)
第5楽章『HE 1239-2426
第6楽章『知られざる(名も無き)クエーサー』
第7楽章『NGC 4258(M106)
第8楽章『故郷への帰還』
第9楽章『終曲』


 HE 0450-2958 はシサスクの星座図では下の方に位置するようですが、今後、ちょうこくぐ座は興味深い領域となりそうですね。

 「寺院への旅」というサブタイトルは《Quasars〜宇宙の灯台》第 2楽章の『シャーマンのクエーサーへの旅』に重なるようでもあります。寺院を巡るのも天体を探すのも、シサスクにとって同じくらい心躍ることなのかもしれません。








コメント