51. ろくぶんぎ座 Sextans

六分儀座  Sextant

陽気な狼  A Jolly Wolf


 137億光年の宇宙の中で現在知られている最も遠い銀河団は 130億光年(初期宇宙)の彼方にあり、「原始銀河団」と呼ばれています。初期宇宙における「原始銀河団」は今後の観測で 1000個は見つかるであろうと考えられています。
 この画像はろくぶんぎ座の方向 115億光年にある原始超銀河団「ハイペリオン」で、その名はギリシャ神話の巨神の名にあやかっています。初期宇宙の構造としてはこれまでのところ最大を誇り、幅は 3億光年、天の川銀河の 5000倍の質量を持っています。ビックバンから(わずか!)23億年後にしてこれほど巨大に進化するのは驚くべきことで、詳しく調べることができれば、宇宙の大規模構造の歴史が解明されるのではないかといわれています。


 これは「ろくぶんぎ座A」Sextans A という直径 5000光年の矮小不規則銀河で、アンドロメダ銀河や天の川銀河(局部銀河群)のお隣 500万光年にある「ポンプ座ろくぶんぎ座銀河群」Antlia-Sextans Group に属しています。ここはろくぶんぎ座の故郷、荒削りのダイヤモンド、宇宙の宝石箱などとも呼ばれています。1億年前にこの銀河の中心で巨大な星が爆発し、今でも活発に星が生まれ続けています。青い星は年齢の若い星、赤い星は老いた星、緑色はまさに星が生まれようとしているということですが、まだまだ多くの謎に包まれています。この画像の手前には天の川銀河の明るいオレンジの星が重なって写っているとのこと、ピントがぼけているように見えますが、宇宙の奥行きを色で感じさせる貴重な画像だと思います。

   この銀河のデュオはろくぶんぎ座の方向、7000万光年にある渦巻銀河 NGC 3169(上)と棒渦巻銀河 NGC 3166で、お互いの重力によって形が歪んでいるといいます。銀河間はこんなに近く見えていても推定で 16万光年にも及び、重力による綱引きにより、2つはいずれ融合するだろうと考えられています。



Caldwell 53(NGC 3115)

 NGC 3115はコールドウェル銀河 Caldwell 53(又の名を紡錘銀河 Spindle Galaxy)と呼ばれるレンズ銀河で、ろくぶんぎ座の方向 3200万光年にあります。



 1992年、このコールドウェル銀河の中心部に当時としては最大の質量(太陽の 20億倍)を持つ超大質量ブラックホールが観測されました。ブラックホールに向かって流れるガスが X線観測によって確認できています。今では上のように高温ガスを画像化することも可能になりました。最も明るく輝いている部分がブラックホールの位置ということになります。




 UGCA 193 はろくぶんぎ座の方向 4900万光年にある渦巻銀河で、その美しさから「星々の滝 A Waterfall of Stars 」という呼び名もあります。


 シサスクのろくぶんぎ座のイメージは「陽気な狼」。

 実は《銀河巡礼〜赤道の星空》の各星座のサブタイトルには、「狼」が付く曲がほかにもあります。「狼にとっての蝶」(おおかみ座)、「うぬぼれ狼」(やぎ座)、「忍び寄る狼」(つる座)というように・・。またこの曲集は 2人の日本人ピアニストに献呈され、「狼と蝶」というサブタイトルも持っています。しかし、狼や蝶は単純に 2人のピアニストのイメージを表すだけではないようです。シサスクのこれまでの曲集では星座の並びと曲順とが絶妙に関係していますが、この曲集でも同じで、さらに「狼」と「蝶」をサブタイトルに加えることで、星座の位置関係のみならず、星座の形、あるいは作曲者の日常から得た個人的なエピソードまで実に多彩な内容を暗示しているのです。時を超え、天と地、人(生き物)がつながる壮大な世界をシサスクは描こうとしたのだと思います。

  しかし、ろくぶんぎ座はなぜ「陽気な」狼なのでしょうか。その答えを探すのには大変な時間がかかったのですが、粘り強く調べて見つけたものがあります。引用する星座図は ESO(European Southern Observatory)の画像ですが、シェアが許されています。

COSMOS field(Wikipedia)

 下記の星座図と併せてご覧ください。ろくぶんぎ座 SEXTANS にある小さな青い四角の部分にコスモス・フィールドと呼ばれる上の画像のような美しい宇宙の領域があります。これは 20万個以上の銀河が存在する銀河の宝庫で、もっとも遠い宇宙の薄暗い光をゆっくりと拾って撮影しているという驚異的な写真なのです。


Credit:

ESO, IAU and Sky & Telescope

 コスモス・フィールド・・・私はフィールドという言葉にピンと来ました。未開の土地、原野といった地上風景を想像したのです。そこに狼は当然、潜んでいるはずです。ろくぶんぎ座にこの曲集で初めて「狼」のタイトルを与えたのは、“宇宙の” 未開の地の存在を暗示するためではないでしょうか。大胆にも「陽気な狼」としたのはシサスクらしい。そもそも《赤道の星空》にはおおかみ座もあり、群れを成して生きていく習性のある狼が散らばっていても面白いと考えたかもしれません。ろくぶんぎ座の狼は、その中でもイケてる狼なのでしょう!

 シサスクのろくぶんぎ座の音楽は、彼自身に狼が乗り移ったかのような躍動感のある音楽です。ご機嫌な様子はコーダ(終結部)にも現れます。当時フィンランドのトゥルクで一緒に暮らしていた家族(メーリエと娘のカトリ)のテーマがほのぼのと幸せな雰囲気を醸し出しているのです。思いがけないテーマが飛び交う情景は、コスモス・フィールドに古くから集う星と銀河にも無数にあって、シサスクに様々なインスピレーションを与え続けているのではないでしょうか。







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