54. さそり座 Scorpius

蠍座  Scorpius

・・・威力  ・・・Power

 この光景はアメリカ、コロラド州のスパニッシュ峰に立ち登る天の川です。天の川から右にこぼれ出たように一際輝くオレンジ色の星は、さそり座の α星 アンタレス Antares です。アンタレスとはギリシャ語で「火星に似たもの」という意味を持ち、サソリの心臓とも呼ばれています。



 NASAは星座図を重ね合わせてくれています。さそり座 Scorpius は天の川にその尻尾を浸すように存在していることがわかります。近くに火星 Mars も写っていますが、アンタレスの輝きの方が優っていますね。Libra てんびん座、Sagittarius いて座、Lupus おおかみ座、Scutum たて座、Serpens へび座、Ophiuchus へびつかい座、Corona Australis みなみのかんむり座が写っているほか、天の川の中心 Galactic Center も記してあります。星空の中で最もゴージャスな領域ではないでしょうか。
 次に、アンタレスにグッと近づいた画像を見てみましょう。
 


 このカラフルな雲のように輝く天体は散光星雲といいます。左下のオレンジの星がアンタレスです。550光年にある赤色超巨星で直径は太陽の720倍もあり、明るさは太陽の1万倍と考えられています。赤い星雲を纏っているのはアルニヤト Alniyat と呼ばれるさそり座の σ星です。アルニヤトとは、アラビア語で動脈を意味します。青い星雲に包まれた星はへびつかい座の星です。アンタレスの右横に見える微細な星の集合体は球状星団 M4 です。



 球状星団 M4 を拡大した画像です。地球に最も近い球状星団(5500光年)で、ここに存在する10万を超える星は宇宙で最も古く、130億年前のものもあるそうです。


 さそり座の領域には多くのメシエ天体があります。28000光年にある球状星団 M80 は、天の川銀河に147個ある球状星団の中で最も密度が高く、相互の引力によって結合された数十万の星が含まれています。


NGC 6357

 この画像の下部は散光星雲 NGC6357 、上部に煌めく星はピスミス24(Pismis 24)という散開星団で 8000光年にあります。ここでは新しい星が数多く生まれています。


 さそり座における天体画像には、蝶に見えるものが2つあります。

 

M6: The Butterfly Cluster

 青く輝く星の輪郭が蝶に見えるでしょうか。バタフライ星団と呼ばれることもある散開星団 M6 で、1600光年にあります。
 

NGC 6302: The Butterfly Nebula

 これは4000光年にある惑星状星雲 NGC6302 で、バタフライ星雲と呼ばれています。こちらは誰が見ても蝶に見えますね。摂氏20万度にも達していると考えられている中心部の星から双方向へガスが噴き出しているためにこのような形になっています。3光年に及ぶ羽を持つこの蝶は、星としての最後の姿。こうした惑星状星雲は数十億年後の太陽の姿を予想させるものでもあるとのことです。





 シサスクのさそり座のイメージは「・・・威力」。シサスクによる星座図に添えられているエストニア語 VÄGI の意味は Power です。(注)

 「・・・」にはどんな言葉が入るでしょう。上の画像から3つ考えてみました。

 ①「アンタレスの」威力
  シサスクの星座図からもわかるように、アンタレスの周囲ではカラフルな星雲を
  纏った星や球状星団などが従者のように、あるいは勢力争いを繰り広げるかの
  ように輝いています。

 ②「球状星団の」威力
  地球に一番近く、宇宙で一番古い M4 、天の川銀河で一番密度の高い M80 から
  は宇宙における巨大な星形成の力を感じます。

 ③「星雲の」威力
  散光星雲 NGC6357 や星の最後の姿であるというバタフライ星雲からは並々な
  らぬ威力を感じます。


 シサスクのさそり座の音楽は、サソリの触手、てんびん座の電気信号を受け、続くように演奏されます。A(ラ)で終わり、A(ラ)で始まるのみならず、両曲は一貫してA(ラ)を基調としています。さそり座の音楽にはてんびん座電気信号が遠くの稲妻くらいにしか思えないくらいの凄まじいエネルギーがあります。左手は地上の闇を這うような不気味な動きで、親指で強調する音は毒針で刺すかのようです。右手の回転するような動きや花火のように炸裂する和音は、このさそり座の領域の波打つような星雲や眩いほどの色の鮮やかさを表していると思います。画像の得られない天体もまだまだあり、それらはまるで潜むように存在するサソリたちのようです。曲の終わりにはほうおう座(動揺する蝶)が見え隠れするような32分音符が現れるので、バタフライ星団やバタフライ星雲に出会えたことは最高の喜びでした。ただ不思議なことにシサスクは、バタフライ星雲 NGC6302 を星座図に示していません。でもこれを残念がらないことにしましょう。きっと彼は、サソリに刺されないように一番大事な蝶を隠しておきたくなって、それを音楽で暗示したに違いありません(笑)。

 ところで《銀河巡礼〜赤道の星空》が書かれた2016年ころ、物理学において、これまで知られていた自然界に働く 4つの力(重力、電磁力、強い核力、弱い核力)に加え、「第5の力」があることがわかってきました。その粒子の発見には至っていないようですが、もし発見されると、暗黒物質とは何かの答えもわかるかもしれないです。しかしまだまだ宇宙の謎解明の道は遠いような気がします。「第5の力」が見つかることで第6、第7の力も出てくるやもしれず・・・シサスクも想像力を膨らませたに違いありません。おや(?)もしかしたら "・・・VÄGI " は「想像・力」だったりして!
 

(注)私のCD では VÄGI の英訳を Force としてしまいました。実はアンドロメダ座のイメージも「力」で、こちらのエストニア語は JÕUD となっています。よく調べてみると JÕUD=Force 、VÄGI =Power とした方が良さそうですので、このブログでは Power としておきたいと思います。


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