57. コップ座 Crater

コップ座  Crater

クララの爪  Klara's Pow


 これは 6000万光年にある棒渦巻銀河 NGC3887 です。シサスクはコップ座の領域に4つの銀河の位置を記しています。4つともウィリアム・ハーシェル(イギリスの天文学者、音楽家、望遠鏡製作者)によって1785年から86年に発見されています。しかしNASAの画像にあったのは残念ながらこの NGC3887 のみでした。残りの3つのうち2つはWikipedia に美しい画像を見つけましたので、以下にアップします。



NGC3672(Wikipedia)

 NGC3672 は7600万光年にある渦巻銀河です。



NGC 3511(Wikipedia)

 NGC3511 は4500万光年にある中間渦巻銀河で、中心部には超大質量ブラックホールがあると考えられています。

 シサスクのコップ座のイメージは「クララの爪」。

   クララとはシサスクの愛犬で、楽譜の冒頭に次のような注釈があります。

クララは公の場でコンサートを行った愛犬のチャイニーズ・クレステッド・ドッグです。2015年10月10日、クララはこの曲の主導動機である譜例の音を爪で無邪気に演奏しました。

             
譜例


 シサスクのコップ座の音楽では、この音がチャイムのように何度も鳴らされるたびに、音楽が天空から降ってくるかのような構成になっています。
 それにしてもどうしてここで愛犬クララが登場するのか・・いろいろ思案しましたが、一枚の星座絵とクララの犬種(チャイニーズ・クレステッド・ドッグ)から、ふとひらめいてしまいました。


 これはイランの第二の都市マシュハドで1632年から33年に作られた星座絵(球体の一部)です。製作者は天文学に強い好奇心と関心を持っていたというアルメニア人のマヌーチェフル・ハーン Manuchihr Khan とのことです。この絵の中央に描かれた盃がコップ座を表しています。私が注目したのは、蛇と鳥、そして左上の獣の足です。
 この星座絵をアップしているWikipedia には中国の天文学についての記述があり、「コップ座は南方朱雀にある」とあります。シサスクは《銀河巡礼〜赤道の星空》において中国の星界物語も取り上げており、彼が中国の天文学にも興味を持っていることは間違いありません。中国では天球を28のエリア(二十八宿)に不均等に分割し、それをさらに七宿ずつ4つ(四神の姿)に分けています。南方の「朱雀」の中央(「星宿」という)は西洋におけるうみへび座の心臓部(うみへび座 α星)にあたるそうです。朱雀(すざく)とは伝説上の神鳥で、翼を広げた鳳凰(ほうおう)のイメージのようです。
 星座というのは 88星座に限らず、世界各地にはいろいろな見方があって、実際は数えきれないほどの呼び名があります。上の星座絵に描かれている蛇と鳥、獣の足を現在のうみへび座からす座おおかみ座に置き換えるに留めず、もっと自由に想像を膨らませてみましょう。

 シサスクの音楽はその自由な想像を大いに楽しんでいるようです。

 親しみやすい旋律線はどことなく東洋的(中国風)です。獣の足はチャイニーズ・クレステッド・ドッグのクララでも面白い。爪でカーンと鳴らすクララちゃんお気に入りの重音は、コップ(盃)を爪で叩く音かもしれません。朱雀はほうおう座に現れるアルペジョに似たパッセージで、犬かもしれない足は「狼を象徴するリズム」(おおかみ座を参照)で暗示しているようです。そして蛇については、なんと《銀河巡礼〜北半球の星空》のへび座のテーマを出現させているのです。うみへび座ではなく、へび座のテーマを選んでいる点が興味深いですね。西洋の見方とは別にしようというこだわりが感じられます。

 ハーシェルが見つけた美しい銀河のこともシサスクは忘れていません。ピアノ内部の弦を優しく叩く響きは、深淵なる宇宙に存在するその姿をぼんやりと浮かび上がらせるかのようです。






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