58. がか座 Pictor

画架座  Pictor

ちょっとロマンチックに  A Little Romantic


 シサスクががか座の領域に記した銀河は2つあります。その一つが 2億光年にある渦巻銀河 NGC1803 です。天の川銀河より小さめな銀河で、直径は 7万光年とのこと。がか座 のラテン語表記 Pictor の意味は「画家」ですが、この星座を形作るのはイーゼルの「画架」です。1756年にラカイユがこの星座に名付けた時は「画架とパレット」 le Chevalet et la Palette だったそうで、19世紀半ばにイギリスの天文学者ジョン・ハーシェルの提案で Pictor になったようです。この銀河 NGC1803 も実はジョン・ハーシェルが発見(1834年)しています。 イーゼルにキャンバスを置いて「さあ、銀河を描いてみてください」と言われたら、誰しもこのような渦巻銀河を描くのではないでしょうか。


The Stars of NGC 1705

 もう一つの銀河は2000万光年にある矮小不規則銀河 NGC1705 です。ここには青白い若い星と赤く老いた星が1000個ほど輝いています。この銀河が誕生したのは130億年前の初期宇宙ではないかと考えられています。

 近年、初期宇宙に誕生した銀河は次々と見つかっています。2020年現在、最も遠い銀河はおおぐま座にあるGN-z11(134億光年)のようですが、2018年当時はがか座にある SPT0615-JD という133億光年にある銀河が最も遠い銀河でした。



 この美しい「がか座銀河団」の画像の中でクローズアップされているのが、133億光年にある SPT0615-JD と名付けられた初期銀河です。133億年前というのはビックバンから 5億年後のこと。画像によって見えるものが、宇宙の誕生時とされる最も遠い場所にじわじわと迫っています。恐るべき望遠鏡の進化!

 《銀河巡礼〜赤道の星空》完成の2016年時点では SPT0615-JD の存在はまだ知られていませんでしたが、NGC1705 が130億年前の初期宇宙に誕生したと推測される銀河であったことは、シサスクのがか座への愛着を深めたことでしょう。

 シサスクのがか座のイメージは「ちょっとロマンチックに」。
   その音楽は、曲の冒頭から誰の心にもスーッと染み入るような音楽です。





 ここでは  リズムが繰り返されています。このリズムはけんびきょう座で初めて現れるのですが、これを「鶯」を象徴するリズムと名付けておきたいと思います。シサスクは自らを「鶯」と語り、《赤道の星空》序文の最後に自筆サインとともに ööbik (エストニア語でウグイスの意味)と書き添えています「鶯」のリズム動機はこれまでに現れた「蝶」の動機、「狼」のリズム動機とともに重要で、の後、らしんばん座じょうぎ座いて座でも存在感を表します

 シサスクのがか座の音楽からは、彼がロマンチストであることが強く感じられます。でもその意味は、現実を離れ、宇宙誕生の130億年以上前を空想し、じっと耳を澄まし続けている・・そういう彼であるということです。

 maestoso(荘厳に) と表示されたクライマックスでは、シサスクはおそらく宇宙誕生の瞬間にいるのだろうと思います。また結部では、生まれたばかりの煌めく星たちが銀河の渦を形作っていく様が描かれているように感じられてなりません。

 ロマンチックという言葉は、空想力なくしては語れない宇宙から生まれたのかもしれません。

 

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