59. たて座 Scutum

 Scutum

鋭い剣  A Sharp Sword
(トッカータ  Toccata)


 たて座いて座と並んで天の川の最も濃い部分にあります。散開星団 M11 は5000光年にあり、シリウス級の明るさの星が数千個ひしめいています。これらの星は2億5000万年前に形成されました。集団で飛ぶカモの群れに見立てて The Wild Duck Cluster(野鴨星団)と名付けられてます。


M26(Wikipedia)
 
 たて座にあるもう一つの散開星団 M26 は M11 に比べると地味な存在ですが、シサスクは自筆の星座図にしっかり書き込んでいます。

 この画像は NASAではなくESO(ヨーロッパ南天天文台)のもの。緑色の IC1295 は 3300光年にある惑星状星雲です。恒星は誕生してからずっと水素の核融合によって輝き続け、いずれは燃え尽きて死を迎えます。多くは最後に中心部だけを残して、ほのかに光る「白色矮星」という段階に進み、何十億年にもわたってゆっくりと冷えていくそうです。この IC1295 の中心部にはそうした白色矮星があり、星の核の燃え尽きた残骸が確認されています。太陽くらいかそれ以上の規模の恒星は、存在の最終段階に入る時に惑星状星雲を形成します。この緑色のベールはかつてこの星の大気であったガスが輝いていると考えられています。
 ESOの超大型望遠鏡が捉えたこの画像は最も詳細なものと言われていますが、天の川銀河からこの天体に近づいていく動画も見つけました。天の川に存在する膨大な星の層の深さを知ることもできる宇宙への旅、その中で小さな小さな緑色の惑星状星雲 IC 1295 に出会える瞬間は奇跡的な感じがします。(動画は音が出ますのでご注意ください。)



NGC6712ESO)

 これは球状星団 NGC6712 とその周辺です。左の画像は右の球状星団 NGC6712 の部分的な5つの領域に当たります。NASAはこの画像を分析し、この球状星団が 23000光年にあり、120〜140億年前のものであること、そして約100万個の星がゆっくりと溶解しているように見えると報告しています。


 たて座の星座図は上図のオレンジの線で描かれているものを多く見かけます。シサスクの書き方は黒い線のとおりで、楯を立てて横から見たような形になっています。たて座は天の川銀河の中心方向を指し示すいて座と並び、膨大な星の集まる最も明るい領域にあります。M11の上の方には「たて座星雲」Scutum Star Cloud と呼ばれる暗黒星雲が広がっています。


 Scutum Star Cloud の辺りにたて座がありますいて座は M24 の辺りから Galactic Center(銀河の中心)に至る広い領域を占めています。The Great Rift とは「巨大な裂け目」という意味で、はくちょう座 Cygnus の方へ伸びる暗黒星雲です。Scutum Star Cloud もその一部なのですね。
 次に天の川の全貌を見てみましょう。


 南半球の星空といえば みなみじゅうじ座。この星座も天の川の中にあります。これに対し、北十字とも呼ばれるのがはくちょう座です。この素晴らしい画像はチリ北部のアタカマ塩原で撮影されたもので、天の川のアーチの下には金星と月、アーチの左には大小のマゼラン銀河も浮かんでいます。アーチの最も太く明るい部分にいて座たて座があり、その右に「巨大な裂け目」、はくちょう座、さらに進むとカシオペヤ座ペルセウス座へ繋がります。

 シサスクのたて座のイメージは「鋭い剣」。

 天の川銀河を眺めていると、たて座アーチの最も高い場所、明るい部分の先端にあることがわかります。散開星団はいて座に存在するものよりも強い光を放っており、鋭い剣のキラリと反射する輝きを思わせます。

 シサスクのたて座の音楽には「トッカータ」という古風なタイトルが付いていますが、重音を含む高速な連打音が終始一貫して繰り広げられる現代的なトッカータです。
 この曲の拍子は6回目までは 2小節ごとに変わります。
1)16分の16 拍子(8分の8拍子)
2)16分の17拍子
3)16分の19拍子
4)16分の22拍子
5)16分の23拍子
6)16分の31拍子
7)16分の39拍子

7回目の39拍子は1小節のみ。その後はそのまま同じことを第6部→第1部へと折り返して、コーダ(16分の16拍子と16分の2拍子の2小節)を加えて終わります。つまり、曲の後半が前半の終わりから冒頭に逆行する構成になっています。これはちょうこくしつ座の曲でも見られた左右対称の構造です。シサスクが結んだたて座の星座図が α星を中心に左右対称になっていることから来ているのかもしれません。




 テンポはなんと16分音符1泊=576 と指示されています。小節数はわずか27小節、演奏時間は1分です。現代のデジタルメトロノームは 576 を出すことができ、私は実際に576 でメトロノームをかけて練習しました。猛烈な速さですが、8分休符を2拍に感じ取れる耳を養うことができた気がします。これは振動や痙攣を表すような、あるいはたて座の領域に密集する膨大な星粒の存在を無数の点で描く代わりに音にしたような音楽でもあります。天の川のごく一部であるたて座の領域を超高速で通過する切り取った動画のような世界にも感じられます。
 
 




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