羅針盤座 Pyxis
まるでサファイヤとエメラルドが溶け込んだような色彩のこの天体は、らしんばん座の方向 10000光年の散開星団 NGC 2818Aの中にある惑星状星雲 NGC 2818です。これは星が最期を迎える時の姿です。中心部の燃料を使い果たした星は外層にガスを放射します。赤い色は窒素、緑は水素、青は酸素で、1万年の間に消滅します。残った星の中心核はその後、数十億年かけて冷え、白色矮星となります。私たちの太陽も同じようなプロセスをこれから 50億年かけて辿っていくことになると考えられています。NGC 2818は死にゆく太陽なのです。
NGC 2613 は 8400万光年にある渦巻銀河で、銀河の腕はきつく巻かれ、整った美しい渦を作っています。
シサスクのらしんばん座のイメージは「夢見る者の幻影」。
以前にりゅうこつ座で、シサスクが描いたアルゴ船の 3つの星座(とも座、ほ座、りゅうこつ座)の全貌をご紹介しました。らしんばん座はもともとアルゴ船座にあって「帆柱(ほばしら)座」という名の星座でしたが、大きすぎるアルゴ船座を分割することになった際、ラカイユによってらしんばん座に改名されました。アルゴ船はシサスクにとって宇宙船のようなイメージかもしれません。航海に利用される羅針盤は宇宙のどの方角を指し示すのでしょうか。夢のような領域へと彷徨ってみましょう。
らしんばん座の音楽は、ゆらゆらと進む宇宙船を表すような左手に乗って、まず「夢見る者」のテーマが現れます。その後、そのテーマを挟みつつ全部で 7つの夢が現れては消えていきます。
1番目の夢 2番目の夢(うお座) 3番目の夢(蝶) 4番目の夢(宇宙) 5番目の夢(地上) 6番目の夢(英雄) 7番目の夢(惑星 "クイッティ・フイッティ KUIJTI - HUIJTI")
「夢見る者」とはシサスク自身でもあるでしょう。1番目の夢は夢の入口のような短いパッセージです。2番目の夢にはうお座(星空への賛歌)のテーマ、3番目の夢には ほうおう座の「蝶」のテーマが現れます。
4番目の夢「宇宙」ではアドリブが要求されています。
右手の波線の部分では「内部の弦を指でトレモロしなさい」とあります。宇宙に散らばる星、銀河や星団の形や色合いをイメージしながら、弦に触れて表現するのはなかなか面白いです。その表現は果てしない宇宙のように無限にあるでしょう。シサスクは一つに限定できなかったからこそ、アドリブにしたのだと思います。
5番目の夢「地上」は宇宙から地上に転落していくような半音階のパッセージで、6番目の夢「英雄」になだれ込みます。「英雄」は、シサスクが 2003年に作曲したオラトリオ "Pro Patria" Op. 92 からのテーマが引用されています。Pro Patriaとはラテン語で「祖国のために」という意味で、エストニアの詩人 ヤーン・レオ Jaan Lõo(1872-1939)の詩 "Nägemised" (1916年)に基づく壮大な作品です。Nägemised とは英語で Visions を意味します。らしんばん座のイメージ "A Dreamer's Visions" と関連しているのは間違いないでしょう。ヤーン・レオの "Nägemised"(Visions)は 3つの詩集から成り、その第3集にバルト海の海岸に到着した最初のエストニア人の英雄たちの物語が語られているそうです。
「宇宙」から「地上」へ降り立つと、つまりそこは英雄が活躍する古代エストニアだったわけです。「英雄」の夢がたったの 5小節で過ぎ去ると、今度は突然、謎のヒエログリフが現れます。ヤーン・レオは古代文字にも熱中していたらしく、シサスクも刺激された可能性がありそうですが、このヒエログリフはシサスクによると、地球外文明を有する太陽系外惑星「クイッティ・フイッティ」特有の文字とのことです。 7番目の夢「惑星 “クイッティ・フイッティ” 」にもアドリブが要求されます。「宇宙」のアドリブよりも音量を落として、鍵盤上で行います。「ファ#の1オクターブ間で指や手のひらでトレモロし、天体の音色を作りなさい」とあります。これはひょっとして惑星と交信する方法なのでしょうか。そもそもクイッティ・フイッティって?? だんだんわけがわからなくなってきましたね。詳しくは次のじょうぎ座でお話ししたいと思います。
【補足】エストニア語のサブタイトルUnistaja = 夢見る者Nägemused = 幻影、幻視、ヴィジョン。
【補足】
エストニア語のサブタイトル
Unistaja = 夢見る者
Nägemused = 幻影、幻視、ヴィジョン。

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