70. りょうけん座 Canes Venatici

猟犬座  Canes Venatici

進行  Going


 渦巻銀河 M51(NGC 5194)は りょうけん座おおぐま座の境界付近、3000万光年の彼方にあり、「子持ち銀河」という名で有名です。大きさは 6万光年に及び、小型双眼鏡、望遠鏡で見ることができます。不規則な形の伴銀河 NGC 5195 がありますが、「子持ち」とはやや違和感があります。なぜならこの 2つの銀河は合体しつつあるからです。



The View Toward M106

  この画像の中央にひときわ目立つ渦巻銀河は M106 で、NGC 4258 としても知られ、2350万光年にあります。この画像は周囲の銀河も映し出されていて魅力的ですが、拡大画像も捨てがたいのでご覧ください。




 この異常なほど明るい中心核の活動は非常に活発で、太陽の数百万倍の質量を持つ巨大なブラックホールがあると考えられています。銀河の直径は6万光年に及びます。



 こちらは直径13万光年にも及ぶとされる渦巻銀河 M94(NGC 4736)で、1600万光年にあります。キラキラと輝く青白い部分は「スターバースト・リング」と呼ばれ、中心部からの強い圧力波の影響で密度の高い雲が作り出され、爆発的な星形成が行われていると考えられています。



Curly Spiral Galaxy M63

 渦巻銀河 M63(NGC 5055)は3500万光年にあり、「ひまわり銀河」とも呼ばれています。花びらのような流れのある渦巻き構造からその名があるのでしょうか。遠くから見た画像の方がその様子がよく捉えられていますが、拡大画像も見てみましょう。



 中心に飲み込まれそうな迫力です。直径は10万光年。青く輝いているのは若い星たち、赤みのある部分は暗黒星雲から星が誕生した後に残される輝線星雲です。暗い塵が渦のラインを描き出しています。



 3万光年にある美しい M3(NGC 5272) は太陽よりも相当古く、質量は太陽の45万倍、50万個の恒星からなる巨大な球状星団です。黄色みを帯びた星は赤色巨星、高温の巨星や脈動変光星は青みがかって見えています。





 ここまで、りょうけん座の5つのメシエ天体画像を見てきましたが、シサスクは上図のように他にも 17の銀河(NGC番号)を挙げています。りょうけん座は天の川から遠く離れているため、多くの銀河を見渡せる領域です。17の銀河のうち 13のNASA画像が見つかりましたが、とりわけ魅力的な画像(青い下線)を以下にピックアップします。なお、りょうけん座の星座図は α と β の星を繋いだだけ(黄色の点線)のものをよく見かけますが、シサスクは独特な繋ぎ方をしています。2匹の猟犬が M3 というソリを引きながら、3列に並ぶゴージャスな M51、 M63、M94 を横切り、天空を駆け抜けていくように見えませんか?

 シサスクのりょうけん座のイメージは「進行」。

 ではもう一歩、りょうけん座知られざる銀河へと参りましょう。出発進行!


 これは 7500万光年にある渦巻銀河 NGC 5005(Caldwell 29)です。この銀河の近くには、次にご紹介する NGC 5033 もあり、望遠鏡では一緒に並ぶ姿を観測できるそうです。



 NGC 5033 は4000万光年にある渦巻銀河です。直径10万光年を超え、古い銀河が合体してできたと考えられています。




   これは「クジラ銀河」の名で人気の NGC 4631 は 2500万光年にある棒渦巻銀河です。中心部では強烈なスターバーストが発生し、多くの超新星が誕生しています。上にぼんやりと光っているのは伴銀河 NGC 4627(矮小楕円銀河)で、このペアは相互作用を起こしており、スターバーストの発生もその作用による影響が大きいと考えられています。


Comet Leonard and the Whale Galaxy

 画像右上は「クジラ銀河」と伴銀河。それを横切ったかのように「レナード彗星」(2021年発見)が映し出されています。輝くエメラルドグリーンの彗星の目指す先には水色の天体、「ホッケースティック銀河」と呼ばれる歪んだ形の渦巻銀河 NGC 4656 があります。「クジラ銀河」との距離は50万光年ありますが、過去に重力相互作用があって生まれたのではないかと考えられています。シサスクが星座図に記している NGC 4656/ 7 という番号は、ホッケースティックの先端部分NGC 4657 として分類している目録によるものと思われます。また NGC 4657 は NGC 4656 に衝突して合体しつつあるという推測もあるようです。


 NGC 4618 は銀河の中心から伸びる腕が一本しかないという珍しい棒渦巻銀河で、2100万光年にあります。今後、近くにある銀河と衝突して、形状が変わるかもしれないと推測されています。


  NGC 4449(Caldwell 21) は1200万光年にある不規則な矮小銀河で、天の川銀河の衛星銀河である大マゼラン銀河(LMC)と同じくらいの大きさです。ピンク色の部分では新しい星が激しい勢いで誕生しており、青白い部分には若い星が集まっています。他銀河との相互作用が関与しているとも考えられるこの銀河の星形成は数十億年前から続いており、宇宙初期にどのような過程を経て銀河が形成されたのかについて知ることができる天体として、天文学者から注目を集めています。


NGC 4490 & 4485(Wikipedia)

 大きい方が棒渦巻銀河 NGC 4490 は小さな伴星雲 NGC 4485 と衝突し、歪んでしまいました。現在、結合の初期段階にあるこのペアは 2500万光年にあります。大きい方の NGC 4490 は横に引っ張られ、もはや棒渦巻銀河とは言いがたく、不規則棒渦巻銀河として分類している目録もあるようです。「まゆ銀河」との愛称もあり、生まれたての若い星が多いため、青白く光って見えます
(NGC 4485 の画像はNASA に見つかったのですが、NGC 4490 単独や ペアの画像はなく、Wikipedia より引用しました)



 3000万光年の彼方にひっそりと佇む中間渦巻銀河 NGC 4242 は、薄暗く、星の形成率の低い銀河です。中心核ははっきり見えており、曖昧な渦巻き構造になっているそうです。


NGC 4151(Wikipedia)

 NGC 4151 は 4000万光年にある中間渦巻銀河です。中心には太陽の1000万倍の質量を持つブラックホールがあると考えられています。その中心部を映し出している次のNASA 画像はとても興味深いものです。



  「炎のリング」というタイトル通り、上の優しい色合いとはまるで別物の画像ですが、天体観測、その可視化の技術進歩はめざましく、NASA の画像更新からは目が離せません。

 以上でりょうけん座知られざる銀河巡礼を終わります。それにしても、りょうけん座という目立たない星座の領域でこれほどまでに多彩な銀河に出会えるとは・・。


 シサスクのりょうけん座の音楽は、前奏の後、7つの番号が振られていて、2/8拍子と3/8拍子の組み合わせのパターン(2小節ずつ)が次のような回数で進んでいきます。強弱も併記しておきます。

 前奏  8 回  p
 1番 8 回  mp
 2番 8 回  mf
 3番 8 回  f
 4番 4 回  ff
 5番 8 回  ff
 6番  12 回  subito p    
 7番 3 回  p
   このほかに 6番〜 7番にまたがって  1回 (またがる前にフェルマータあり)

上記の回数をすべて足すとパターンは 60回。
曲全体の小節数は 120 小節。
速度表示は、符点四分音符=60 

となっていて、美しい数字の関係性があります。シサスクの「進行」というイメージから、メトロノーム表示を60 としたのには、もしかしたら意味があるでしょうか。地上でのゆったりめの歩みの標準速度でもある「四分音符」=60 よりも微妙に速い「符点四分音符」=60 は宇宙空間を進行する探査機(はやぶさ?!)での時間の進行(地球上より時間が速く流れる)を反映していたりして・・。

 拍子のパターンは、りょうけん座の領域に散らばる多くの渦巻銀河の「渦」を描いているのではないでしょうか。2 拍子、 3 拍子をまとめて 5拍子にしないことで、渦の周囲の短い回転と長い回転の活発な動きを表しているように感じます。強さのクライマックスは 4番〜5番(合わせて12小節間)になっていますが、音の厚みを増す 5番では、らしんばん座(夢見る者の幻影)のクライマックスに似た音型が突如、現れます。これが自然にそうなったとはどうしても思えず、とても気になりました。
 らしんばん座といえば「7つの夢」が現れ、その4つ目は「宇宙の夢」(アドリブあり)、5つ目は「地上の夢」で宇宙から地上に転落していくような 3連符のパッセージ、そして 7つ目は「惑星:クイッティ・フイッティの夢」で、クイッティ・フイッティと交信するアドリブがありました。

 敢えてこうしたことを思い出す必要があったのは、りょうけん座宇宙との交信をイメージさせるような次の出来事を知ったからです。シサスクは当然、この事件に興味を抱いたことでしょう。らしんばん座の 5つの夢で降ってきた宇宙現象とは? その答えはひょっとして、りょうけん座の 5番の音楽が暗示しているのではないでしょうか。


 2009年4月29日、りょうけん座の方向で、NASA のガンマ線観測衛星スウィフト Swift が 5秒間の「ガンマ線バースト」を検知、その日付から GRB 090429 が記録されました。この画像は検知の107秒後に X線で撮像されたものとのことです。

 ガンマ線バーストとは、宇宙の遥か彼方で星が最期を迎える際の大爆発で放たれる強烈なビームです。その爆発は星の死と同時に、新しいブラックホールの誕生を告げます。太陽が一生の間に放つエネルギーをわずか数秒で放射する現象で、それがどこから発せられたのかを知ることがとても重要。残光が消える前に位置特定を急ぐ必要があります。
 GRB 090429 は調査の結果、なんと、観測史上(2023年現在)最も遠い131億4000万光年先で起きた爆発であることがわかりました131億4000万光年先とは、宇宙誕生から 5億2000万年後の世界です。ガンマ線は人間にとって最も危険な放射線で、大気圏はそれが地上に降り注ぐことのないよう地球を守っているのですが、このバーストの検知、その正体の解明は今後、宇宙との交信の手がかりとなるかもしれません。


 シサスクはたった 2分ほどの音楽で、りょうけん座の領域にどんな天体があり、何が起きたのかさえも表し、宇宙の謎解きには、小さな気づきが大切であることも教えてくれました。広大な風景を小さなキャンパスに描けるのと同じように、小曲が小さな世界を描いているとは限らないのですね。雑草一本、小石一つにも小宇宙が隠れています。私たちはどこから来て、どこに進むのか、まだまだわかりそうにありません。







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