73. おとめ座 Virgo

乙女座  Virgo

 存続  Standing

Virgo Cluster Galaxies

 おとめ座には、7000万光年の彼方に2000個もの銀河がひしめく「おとめ座銀河団」Virgo cluster があります。NASAギャラリーにはこの領域の画像が数多くありますが、最新(2023年5月26日)を選びました。私たちの天の川銀河に最も近い巨大な銀河団でもあり、一部はかみのけ座の領域にまたがっています。この「おとめ座銀河団」を中心に天の川銀河、アンドロメダ銀河、マゼラン銀河を加えた100個余りの銀河群や銀河団から成る集団を「おとめ座超銀河団」Virgo Superclusterと呼び、その直径は1億光年に及びます。左の方に緩やかな弧を描くように並ぶ銀河は「マルカリアンの鎖」Markarian's Chain 中心下に一際大きく輝くのは、5500万光年の彼方にある楕円銀河 M87 です。順を追って、もう少し詳しく見てみましょう。



  「マルカリアンの鎖」は発見者であるアルメニアの天文学者ベンジャミン・マルカニンに因んで名付けられました。このチェーンの右上にあるぼんやりと輝く二つの銀河は、レンズ状銀河 M84 と M86 です。その斜め左下に「マルカリアンの目」The Eyes と呼ばれる銀河があります。拡大すると・・



 相互作用によって歪んだ銀河(左が NGC 4438、右が NGC 4435) は5000万光年にあり、夜空に浮かび上がる顔のようです。2つの目の間は10万光年も離れているそうです。


The Galaxy, the Jet, and a Famous Black Hole

 オレンジ色のドーナツ型画像は楕円銀河 M87 のブラックホールです。以前、天の川の中心に位置するブラックホールいて座 A*(Aスター)」でご紹介した画像によく似ていますが、このM87 ブラックホールは国際研究チームEHT(Event Horizon Telescope)によって史上初めて成功したブラックホール画像で、いて座 A*」撮影の3年前の2019年のものになります。この画像では、ブラックホールから噴き出す数千光年に及ぶジェットも捉えられています。ブラックホールは強力な重力で周囲のものを吸い込んでいるとされているのに、なぜガスを噴出し、それが輝いているのかについては未だ解明されていません。


 シサスクによるおとめ座の星座図には、「おとめ座銀河団」が所狭しと書かれていますが、全てを書き切れなかったようです。おとめ座は星の繋ぎ方がいろいろあるようです。この図は乙女が横たわっているような角度になっており、右の方が頭です。シサスクが繋いだ恒星は乙女の腰あたりまでですが、追加したオレンジ色の点線で足の方まで含める形もあります。シュルマ Syrma の意味は「ドレスの裾」です。以下におとめ座を構成している恒星をアップしてみます。命名された恒星名の由来や意味のわからないもの、特に名のない恒星もあります。

【シサスクが繋いだおとめ座の恒星(10個)】

α Spica スピカ(麦の穂) 全天21の1等星の1つ。連星。
β Zavijava ザヴィヤヴァ 4等星
γ Porrima ポリマ(女神) 3等星 連星
δ Auva   アウヴァ 3等星
ε Vindemiatrix ヴィンデミアトリックス(ぶどうを摘む女) 3等星
ζ Heze ヘゼ 3等星
η Zaniah ザニア 4等星 連星
θ星
ν星
ο星

【シサスクが繋がなかったおとめ座恒星】

109番星
ι  Syrma シュルマ(ドレスの裾)
μ
τ

 シサスクが書き込んだおとめ座の領域にある銀河のNASA画像をもう少しご紹介します。星座図で位置を確認してみてください。


 棒渦巻銀河 NGC 4535 は「おとめ座銀河団」に属し、5200万光年にあります。1950年代のアメリカのアマチュア天文学者 Leland S. Copeland は、望遠鏡では幽霊のように霞んで見えることから「失われた銀河」The Lost Galaxy と名づけています。


 楕円銀河 M49は「おとめ座銀河団」で最初に発見された銀河であると同時に、天の川銀河以外で発見された最初の楕円銀河であるとのことです。6000万光年にあるこの銀河は楕円をしているという以外に構造的特徴はなく、6000個もの球状星団があって大半が年老いた星です。つかみどころのない形状からは想像しにくいですが、中心には超巨大ブラックホールが潜んでおり、その質量は太陽の5億6500万倍と推定されています。


  ゴージャスな銀河 M61 は5200万光年にあり、太陽の500万倍以上の質量を持つブラックホールが存在します。爆発的な星形成が進む「スターバースト銀河」でもあり、ルビーのように赤い光を放つのは最近生まれたばかりの星々です。


 真横から見た銀河(エッジオン銀河)が映し出されています。6000万光年にある NGC 4762 は塵の少ないレンズ状銀河で、直径は10万光年あります。私たちの天の川銀河もこのくらい厚みの薄い銀河であると考えられています。


 M104 は NGC 4594 としても知られ、「ソンブレロ銀河」の名でも有名です。《赤道の星空》 66. いて座 の後の「天の川の中心部」 Heart of the Milky Way にて、シサスクが四手連弾のための《ソンブレロ銀河》Op. 119 という曲を書いていることにも触れました。
 メキシコのつばの広い帽子「ソンブレロ」のイメージから名付けられた M104 は2800万光年にあり、直径は 5万光年。真横に近い角度で映し出されていますが、これは楕円銀河の中に渦巻銀河が収まっているといった複雑な構造をしているそうです。円盤の縁は塵によるリングで覆われています。


 この写真はスウェーデンの古いオークの木々の間から、惑星と星が一緒に南東に向かって昇っていく様子を撮影したもので、赤い星は火星、青い星はおとめ座の α星スピカです。260光年にあり、太陽の1500倍の光を放っています。女神が左の手に持つ「麦の穂」を意味するスピカは、農業の女神としてあらゆる時代、あらゆる国民が思いを寄せた星でした。

 シサスクのおとめ座のイメージは「存続」。
 エストニア語では Seisund 、その英訳は state, status, standing とあり、邦訳は迷いました。結果、どういう「状態」かを表す state や status より、 standing を「存続」と訳す選択に落ち着きました。
 

 とっておきのこの画像は「マルカリアンの鎖」辺りから、かみのけ座M64 M53 にもまたがる壮大な「おとめ座銀河団」です。NASA のリンクに飛ぶと、映し出されている天体の名称を見ることができます。銀河というのは群れ集まっているのが普通で、宇宙の中で単独で存在することは滅多にないそうです。「おとめ座銀河団」は天の川銀河から最も近い銀河団で、比較的若い銀河団であると考えられています。個々の銀河の中で作られた星々は、他の銀河との相互作用ではじき出される場合もあり、そうしたはどこの銀河にも属さずに「銀河間星 Intergalactic star として存続しているとのことです。そしてそのような星(恒星)は「おとめ座銀河団」内に一兆個以上存在すると推測されています。シサスクはこの画像を埋め尽くしている名も無き小さな恒星たちをも愛おしく思ったに違いありません。

 シサスクによるこの威厳に満ちた領域を表す音楽は、おとめ座やその周囲についての考察を深めることを促しているようです。
 奥深さを感じさせる宇宙への讃美歌のようなハーモニーは、徐々に跳躍や符点のリズムによって動き出し、鍵盤の音域をフルに使ってエネルギーを増していきます。前半のクライマックス ffff では、88鍵のピアノの最高音 ド(C)からヘ音記号のファ(F)までの広範囲(譜例1 の赤い点線内)を両腕の上腕によるクラスター奏法によって捉えます。

【譜例1】
 
  5秒に及ぶこのクラスターから生み出されるのは、銀河からこぼれ落ちる星々を表すような パッセージです。 pp から次第に速度と強さを増し、渦を巻くように急降下していきます。その終着点 ff では、この曲の最低音 変ロ(B)が使われています。(譜例2の赤い囲み)

【譜例2】



  この後、この変ロ(B)を基音とし、終結へと向かいます。(譜例3)

【譜例3】



 おとめ座でピアノ(88鍵)のすべての音が使われたのかどうか気になり、調べてみました。すると次の音が未使用とわかりました。(譜例4)
 
【譜例4】


 ミ(E)の2つの高さの音と、88鍵の最低音であるラ(A)が使われなかったことには何か意味があるのではないでしょうか。このあと続く 2つの星座、しし座こじし座で、謎解きします!

      







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