76. いっかくじゅう座 Monoceros

一角獣座  Monoceros

愉快な巡礼者  Jolly Pilgrim

A Cosmic Rose: The Rosette Nebula in Monoceros

 5200光年にある宇宙のバラ。「ロゼット星雲」または「バラ星雲」と呼ばれる散光星雲 NGC 2237で、ガスや塵で出来ています。ロゼット Rosette は「バラの花飾り」という意味です。直径50光年に及ぶ星雲の中心部の空洞には、散開星団 NGC 2244 が輝いています。NGC 2244 の拡大画像も見てみましょう。


 宝石のような NGC 2244 の星々は、数百万年前に周囲のガスから形成されたと考えられています。


Zodiacal Night

 いっかくじゅう座は「冬の大三角」(オリオン座のベテルギウス、こいぬ座のプロキオン、おおいぬ座のシリウス)に囲まれた領域に位置しています。フランス南部のピレネー山脈の日没後に撮影されたという画像に「冬の大三角」、そしてシサスクによる星の結び方を参考に、いっかくじゅう座を書き入れてみました。恒星 ε(イプシロン)から上に結んだ赤線をシサスクは記していませんが、この辺りは一角獣(ユニコーン)の角になるので、加えてみました。 ε の角地には、ぼんやりと赤みを帯びた「バラ星雲」が映し出されています



 画像の中央にクリスマスツリーがあるのがわかりますか? 2700光年にある散開星団 NGC 2264 、その名も「クリスマスツリー星団」です。ツリーのてっぺんには「コーン星雲」Cone Nebula、生まれたばかりの星々で青く輝いているのは「雪の結晶星団」Snowflake Star Cluster、左下は「キツネの毛皮星雲」Fox Fur Nebula と呼ばれ、なんとも愉しい領域です。



 「コーン星雲」の拡大画像も見てみましょう。

 コーンはトウモロコシではなく円錐の意味で、「円錐星雲」とも呼ばれます。2500光年にある巨大な塵の柱で、高さは7光年あり、赤みがかった色をしているのは水素ガスが光っているためと考えられています。




 いっかくじゅう座には散開星団が多いですが、メシエ天体として唯一の M50 も散開星団で、3200光年にあります。NASAギャラリーにはこの画像しかなかったのですが、条件が良ければ肉眼でもぼんやり見えるそうです。



 蝶のような形のこの天体は2000光年にある惑星状星雲 NGC 2346 で、「バタフライ星雲」Butterfly Nebula とも呼ばれています。星雲の中心には連星があり、16日ごとに互いの周りを公転しているそうです。


 左上にカモメ、右下に小さなアヒルがいるのがわかりますか? それぞれ「かもめ星雲」Seagull Nebula3800光年)、「ダック星雲」Duck Nebula(15000光年)と呼ばれています。「かもめ星雲」は頭部が NGC 2327、翼と胴体が IC 2177、「ダック星雲」は NGC 2359 で、いずれも散光星雲です。
 アヒルの方は、北欧神話に登場する雷神トールが被っている兜(かぶと)に似ていることからから、「トールの兜」という通称もあります。その兜には角があるそうです。

 シサスクのいっかくじゅう座のイメージは「愉快な巡礼者」。

  「巡礼者」とは何を意味するでしょうか。Pilgrimラテン語 peregrinus )の原意は「放浪者」あるいは「異邦人」であり、宗教的な意味合いに取らない方がよいかもしれません。「いっかくじゅう座には、カモメやアヒル、蝶が彷徨っていて、円錐形のモンスターのような異人がいて、キツネの毛皮やクリスマスツリー、巨大なバラの花飾りもあるんですよ!」なんて説明されたら、誰だって愉しい気持ちになり、行ってみたくなりますね。
 一方で「巡礼者」というイメージからは、シサスクは一角獣(ユニコーン)に興味があったのではないか・・という気がしてきます。星座名は音楽とは関係しないとも述べているシサスクですが、この曲だけ唯一、遠い過去の音楽に舞い戻るような「フーガ形式」で書かれているからです。天の川に紛れ、「冬の大三角」の内側に潜むゆえに、その姿を捉えにくいといわれるいっかくじゅう座。幻ともいうべき一角獣を探す案内人となってくれるのが愉快な巡礼者たち、即ちここで見ていただいた個性的な天体たちなのではないでしょうか。


 いっかくじゅう座のフーガのテーマ(譜例1)はとても重要です。T と書いてある部分がテーマのメロディラインです。

【譜例1】



 発展するフーガは次第に調性感を失っていき、テーマは破壊的な不協和音の対旋律に押しつぶされそうになります。一旦、静かな瞑想の世界に入るものの、再び長いクレッシェンドを経てクライマックスに達するところでは、けたたましいクラスター音に抗うことになります。(譜例2)

【譜例2】

 括弧が掛けてある右手の重音は、黒鍵を含むその音域のクラスター奏法(手の平で叩く)。

 コーダはテーマの単旋律のみで終息しますが、冒頭とは違う調に変わっています。(譜例3)

【譜例3】


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 紀元前のインダス文明やインドのヒンドゥー教の古い文献に現れ、アジアの国々、古代ローマ、そしてヨーロッパへと伝わったユニコーンは、旧約聖書でも言及されましたが、実在しない生き物であると解明されたのは17世紀末であったとか。何千年もの間、国を超えて人々に夢を見させてくれたこの不思議な伝説。シサスクはそれを宇宙の進化と重ね合わせているのではないでしょうか。宇宙の緻密な構造の中で生きる星々の多様性を音楽で描く手段の一つとして、フーガ形式を選んだことがこれほどまでに強いインパクトを生み出すとは・・。

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 このフーガのテーマが重要と書きましたが、理由については次回をお楽しみに。ユニコーンの実在を信じ、出会うことを夢見ていたかもしれないギリシャの英雄が現れ、目に見えぬ巨人(72. きりん座を参照)も再登場します。









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