80. かに座 Cancer

蟹座  Cancer

偶発  The Contingency

M44: The Beehive Cluster

 かに座の領域の中央にある散開星団「プレセペ星団」M44 です。600光年にあり、太陽系に最も近い星団の一つ、1000個ほどの星があります。肉眼でも見えるため、古代から認識されていました。「プレセペ」Praesepe はラテン語で「飼い葉桶」の意味で、その場合のイメージとしては γ、η、θ、δ の各星で形作る四角形になります。4つの星のうち、γ星と δ星は飼い葉桶の餌を食べる2頭のロバに見立てられていました。
 かに座の星の繋ぎ方には様々あり、「プレセペ星団」を γ、η、θ、δ で囲んだ場合はカニの甲羅にも見えるため、次のような繋ぎ方が面白いかなと思います。
(シサスクによる星座図の恒星の位置を元にしていますが、彼の繋ぎ方とは異なります。) 

【図1】
α    Acubens 
β    Al Tarf  
ζ    Tegmine カニの殻
γ Asellus Borealis 北のロバ
δ    Asellus Australis 南のロバ
θ 星はシサスクによる記入がなかったので、加筆しました。


 スイスのマッターホルンにて 2019年1月21日、スーパームーンの皆既月食。地球の影に完全に入った月が赤い光を反射しています。そして、カラフルな流星も。
 しかし皆さん、この写真で注目していただきたいのはそこではありません。この名峰の真上に輝くかに座の「プレセペ星団」です!
 

 かに座には α星の近くにもう一つ、散開星団があります。この画像の中心付近に繊細に輝く M67 は、「プレセペ星団」M44 よりも遠い 2800光年の彼方あり、500個ほどの星が集まっています。M44 は 6億歳と若い星団であるのに対し、M67 は太陽とほぼ同じ年齢で、40億歳前後と考えられています。


 中心部が古い星でいっぱいの NGC 2775 は、 6700光年にある渦巻銀河です。外側は羽毛のような複雑な腕となっていて、このような形状を持つものは「羊毛状渦巻銀河」Flocculent spiral galaxy という種に分類されるそうです。何百万個もの青く若い星が、羽のような腕の中で暗い塵と交錯しながら輝いています。


【図2】 シサスクによる星座図



 シサスクは「プレセペ星団」の周囲を囲んでいませんが、かに座のこの繋ぎ方は一般的によく見られます。しかし、シサスクは音楽によって更に新たな繋ぎ方を提案します。

 シサスクのかに座の音楽は、「フレーム」と名付けた冒頭と終結部、そしてその間を A 〜 E の 5つの部分に分けて展開していく構成となっています。A 〜 E の 5つの部分は、固有名を持つ 5つの恒星を表現しているのではないかと推測していたところ、思いもよらぬ結果が!
 まず、「フレーム」The flame と書かれた冒頭の数小節を 譜例1 で見ていただきましょう。

【譜例1】

 この The flame は17小節あり、終結部でも全く同じに再現します。つまり、かに座の音楽は The flame で始まり、The flame で終わるのです。間の A 〜E の内容はどうなっているでしょうか。
      

 この結果から、B と C は γ星 Asellus Borealis(北のロバ)と δ星    Asellus Australis(南のロバ)のペアであることは明らかでしょう。

 気になるのは Dと E の拍数の合計が、ちょうど A の拍数と同じになっていることです。これは何を意味するでしょうか。B と C 以外、残る 3つを次のように当てはめてみます。
   

 シサスクがかつて、みなみのさんかく座〜二等辺三角形のコントラスト(参照:33. みなみのさんかく座で三角形と小節数を関連させ、音楽構成していたことを思い出し、次のように考えてみました。下図に書き入れた番号と照らしてご覧ください。


   DE をペアとして結ぶ(赤)


   DE の合計小節数が A と同じになった

      ことから、A との関連を表すため、DA

 (青・点線)、Eを結ぶ(紫)


  もともと BとE(黒・点線)が繋いである

      ので、対角線が 2本になり、flame 

      完成(緑)


 DとE の小節数が同じでないのは、A と結んだ線の長さ、すなわち対角線の長さと底辺の長さの違いを表そうとしたのではないかと推測できます。


 A〜E の 5つの部分のうち、最後の E の音楽はそれまでに使われなかった 連符のリズムで突如始まります。しかも88鍵の鍵盤の端と端の音を使うというかなり唐突なやり方です。(譜例2)
 
譜例2】


 もう、お気づきでしょう?  
 E = β星の固有名 Al Tarf の意味は「端」でしたね! かに座の領域の一番端っこから三連符でスタートせよとは、つまり、「A - D - E で三角形を作れ!」ということに間違いありません。

 E の部分が終わった時、1小節の沈黙(フェルマータ)があります。最後の線が結ばれた時、キーのナンバーが合ったかのように、「フレーム」の扉が静かに開くのではないでしょうか。
  「プレセペ星団」は、亡くなった人の魂が通過する場所ともいわれます。「フレーム」は、魂が通ろうとするたびに見え隠れする入り口なのかもしれません。

 
 シサスクのかに座のイメージは「偶発」。

 実は D とした ζ 星  Tegmine (カニの殻)は、もともとは線で結ばれていませんでしたが(図2)外されていたそれを偶発的に加えることで、フレームが完成しました。
 シサスクが 書き忘れた θ星 を加えたら、「プレセペ星団」をきっちり囲むことが出来、カニらしい形(図1)にもなりました。(もしや、シサスクは偶発的な思いつきで θ星 を外したのか?!
 見えたり、見えなかったり、見える気がしたり・・星空を見ていると、思いがけないこと(偶発)ばかりです。でもよく見ようとすることで、その領域への理解や愛着が増していきます。

 最後に「ラ」A について。
 かに座のフレームは「ラ」A の音が基調となっていますし(譜例1)、クライマックスともなる E の冒頭(譜例2)の左手にも一番低い「ラ」A がありました。これは偶発ではないでしょう。
 かに座のカニの手(ハサミ)の先へ、 ι 星からさらに延長すると北斗七星 Big dipper があります。そこから北極星が見つかります。
 











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