山猫座 Lynx
虚無 Nothingness
人目につかないやまねこ座にひっそりと輝く球状星団 NGC 2419です。30万光年もの彼方にあり、"銀河間の放浪者" The Intergalactic Wandererと呼ばれることがあるそうです。
NGC 2419: Intergalactic Wanderer
これは同じ "銀河間の放浪者" the Intergalactic Wanderer とは思えない NGC 2419の最新画像(2023年)です。この球状星団の年齢は 100億歳と考えられています。
NGC 2683: Edge-On Spiral Galaxy
3000万光年にある渦巻銀河 NGC 2683は 横向きの姿が映し出されています。空飛ぶ円盤のように見えることから " UFO 銀河" の通称もあるようです。
やまねこ座 Lynxという星座名は "山猫" の目が必要なほど見えにくいことから命名されたとのこと、それほどに暗い星ばかりで探しにくい星座です。上図ではやまねこ座の位置を赤い矢印で指しています。 天の川で堂々たる存在感を示す六角形は、冬の代表的な 6つの 1等星を結んだ「冬のダイヤモンド」です。その内側には、オリオン座の星を含む「冬の大三角」があります。やまねこ座の左上にはおおぐま座 Ursa Majorがいますね。つまり、やまねこ座は明るい星の領域の谷間のようなところに佇んでいるのです。実際の星空ではどんなふうに見えるでしょうか。
アメリカ・コロラド州上空の写真を天の川が見えやすくなるよう画像編集させていただき、やまねこ座 Lynxを探しました。星の繋ぎ方はシサスクによる星座図に倣っています。やまねこ座の周囲は微細な星はたくさんあるものの、「冬のダイヤモンド」で囲んだ天の川に比べると、暗い領域であることが一目瞭然かと思います。 やまねこ座の右下には、かに座の「プレセペ星団」Praesepeが姿を覗かせています。
シサスクのやまねこ座のイメージは「虚無」。
虚無 Nothingnessの意味にはやまねこ座の存在感の薄さも含まれていると思いますが、もっと深い意味が隠されているのではないでしょうか。「虚無」Kyo-Muという日本語には、 "無限の宇宙" や "果てしない大空" という意味もあります。目立つ天体が殆どないやまねこ座はつまらない領域なのではなく、万物は「無」から生じたのではなかったか・・などと、宇宙への思いを馳せる場所なのかもしれません。そしてまた「無」とは、見えないものとは限らないと今回気づきました。コロラドの無数の星からやまねこ座の星を一つずつ探し出す時、それが画面上であったとしても、位置を特定できた瞬間というのはその星の存在を知ることになった瞬間です。無数の星は初めはどれも同じに見えるもので、その状態ではまだ何もわからない、つまり「無」であるのと同じなのです。どんな状態にせよ、自分に見えてないだけであるのかもしれない。そう思って向かい合うのが宇宙なのではないでしょうか。
シサスクのやまねこ座の音楽は、見えないものが徐々に見えてくるかのように始まります。見えてくるのは「ラ」Aという天体です。これは私の思うところ、その名も "銀河間の放浪者"、球状星団 NGC 2419ではないでしょうか。 細かい無数の星々の中に潜む NGC 2419 =「ラ」Aは、持続的に仄かな光を放ちながら彷徨っているかのようです。細かい音のパッセージは数種のパターンを繰り返します。(譜例1)
【譜例1】
やまねこ座の全 43小節の曲の中で、この「ラ」Aは 39回、光を放ちます。曲のほぼ真ん中の第 22〜23小節は転換点を表すかのように、左手が 「ラ」Aの単音だけになります。(譜例2)
【譜例2】
この後からパッセージのパターンが変化し始め、第27小節で左右のパッセージが初めてユニゾンになるとき、右手はこの曲の最高音となる「ラ」Aに達します。第 30小節では拍子も変わり、その後は 4分の3拍子と 2分の3拍子を交互に反復させます。第 31小節からの左手の「ラ」Aは、「最後まで mfで」mf al fineで弾くようにとの指示があります。(譜例3)
【譜例3】
パッセージは徐々に音量を増し、第 37小節でピーク(ff)に達します。ffは長くは続かず、第 39小節で 39回目の「ラ」Aを響かせたのち、フェイドアウトに向かいます。(譜例4)
【譜例4】
やまねこ座の演奏においてはバランスの絶妙さが求められます。特に気をつけたいのは、第31小節(譜例3)からの指示通り、左手の「ラ」Aを最後まで mfで弾くことです。パッセージが f や ffに達しても、左手の「ラ」Aだけは mfのままキープすることになるわけです。でも、それにはどんな意味があるでしょう。目当ての天体は時には何かに遮られ、見えにくくなることを表現しているのではないでしょうか。シサスクが球状星団 NGC 2419を望遠鏡で探し求めていると想像してみてください。f〜 ffのパッセージにかき消されそうになりながらも、mfで最大限に輝こうとする「ラ」Aの存在を聴き取れますか? 聴き取れるはずです!
39回目の最後の「ラ」Aを確かに聴き取った後は、天頂へと遠ざかるような音楽とともに、その光の余韻を見送ります。
国立天文台よりダウンロード
「ラ」Aで始まり、「ラ」Aで終わったやまねこ座。この星座を形作る恒星は本当に暗く、実際の星空の中から見つけ出すのは不可能に近いかもしれません。コロラドの画像においても目を凝らして選び取るような作業になりましたが、見つけるためのポイントはあります。ぎょしゃ座 Aurigaの主星カペラ Capellaからの延長上にやまねこ座の α星があります。もう一方の端である 15番星は、ふたご座 Geminiのカストル Castorとポルックス Polluxを繋ぐ線の延長にあります。やまねこ座から北極星 Polarisを見つけるには、15番星の延長上にきりん座の α星を探すと良いでしょう。
やまねこ座の曲は、シサスクの師匠であったエストニアの作曲家レネ・エースペレ René Eespereに献呈されました。ミニマルミュージック的なやまねこ座の音楽はエースペレの作風を思わせるところがあります。師匠というのは、例えその元から離れ、独自の道を歩んでいったとしても、心の中にずっと存在し続けるのではないでしょうか。
これは同じ "銀河間の放浪者" the Intergalactic Wanderer とは思えない NGC 2419の最新画像(2023年)です。この球状星団の年齢は 100億歳と考えられています。
NGC 2683: Edge-On Spiral Galaxy
3000万光年にある渦巻銀河 NGC 2683は 横向きの姿が映し出されています。空飛ぶ円盤のように見えることから " UFO 銀河" の通称もあるようです。
やまねこ座 Lynxという星座名は "山猫" の目が必要なほど見えにくいことから命名されたとのこと、それほどに暗い星ばかりで探しにくい星座です。上図ではやまねこ座の位置を赤い矢印で指しています。
天の川で堂々たる存在感を示す六角形は、冬の代表的な 6つの 1等星を結んだ「冬のダイヤモンド」です。その内側には、オリオン座の星を含む「冬の大三角」があります。やまねこ座の左上にはおおぐま座 Ursa Majorがいますね。つまり、やまねこ座は明るい星の領域の谷間のようなところに佇んでいるのです。実際の星空ではどんなふうに見えるでしょうか。
アメリカ・コロラド州上空の写真を天の川が見えやすくなるよう画像編集させていただき、やまねこ座 Lynxを探しました。星の繋ぎ方はシサスクによる星座図に倣っています。やまねこ座の周囲は微細な星はたくさんあるものの、「冬のダイヤモンド」で囲んだ天の川に比べると、暗い領域であることが一目瞭然かと思います。
やまねこ座の右下には、かに座の「プレセペ星団」Praesepeが姿を覗かせています。
シサスクのやまねこ座のイメージは「虚無」。
虚無 Nothingnessの意味にはやまねこ座の存在感の薄さも含まれていると思いますが、もっと深い意味が隠されているのではないでしょうか。「虚無」Kyo-Muという日本語には、 "無限の宇宙" や "果てしない大空" という意味もあります。目立つ天体が殆どないやまねこ座はつまらない領域なのではなく、万物は「無」から生じたのではなかったか・・などと、宇宙への思いを馳せる場所なのかもしれません。そしてまた「無」とは、見えないものとは限らないと今回気づきました。コロラドの無数の星からやまねこ座の星を一つずつ探し出す時、それが画面上であったとしても、位置を特定できた瞬間というのはその星の存在を知ることになった瞬間です。無数の星は初めはどれも同じに見えるもので、その状態ではまだ何もわからない、つまり「無」であるのと同じなのです。どんな状態にせよ、自分に見えてないだけであるのかもしれない。そう思って向かい合うのが宇宙なのではないでしょうか。
シサスクのやまねこ座の音楽は、見えないものが徐々に見えてくるかのように始まります。見えてくるのは「ラ」Aという天体です。これは私の思うところ、その名も "銀河間の放浪者"、球状星団 NGC 2419ではないでしょうか。 細かい無数の星々の中に潜む NGC 2419 =「ラ」Aは、持続的に仄かな光を放ちながら彷徨っているかのようです。細かい音のパッセージは数種のパターンを繰り返します。(譜例1)
【譜例1】
やまねこ座の全 43小節の曲の中で、この「ラ」Aは 39回、光を放ちます。曲のほぼ真ん中の第 22〜23小節は転換点を表すかのように、左手が 「ラ」Aの単音だけになります。(譜例2)
【譜例2】
この後からパッセージのパターンが変化し始め、第27小節で左右のパッセージが初めてユニゾンになるとき、右手はこの曲の最高音となる「ラ」Aに達します。第 30小節では拍子も変わり、その後は 4分の3拍子と 2分の3拍子を交互に反復させます。第 31小節からの左手の「ラ」Aは、「最後まで mfで」mf al fineで弾くようにとの指示があります。(譜例3)
【譜例3】
パッセージは徐々に音量を増し、第 37小節でピーク(ff)に達します。ffは長くは続かず、第 39小節で 39回目の「ラ」Aを響かせたのち、フェイドアウトに向かいます。(譜例4)
【譜例4】
やまねこ座の演奏においてはバランスの絶妙さが求められます。特に気をつけたいのは、第31小節(譜例3)からの指示通り、左手の「ラ」Aを最後まで mfで弾くことです。パッセージが f や ffに達しても、左手の「ラ」Aだけは mfのままキープすることになるわけです。でも、それにはどんな意味があるでしょう。目当ての天体は時には何かに遮られ、見えにくくなることを表現しているのではないでしょうか。シサスクが球状星団 NGC 2419を望遠鏡で探し求めていると想像してみてください。f〜 ffのパッセージにかき消されそうになりながらも、mfで最大限に輝こうとする「ラ」Aの存在を聴き取れますか? 聴き取れるはずです!
39回目の最後の「ラ」Aを確かに聴き取った後は、天頂へと遠ざかるような音楽とともに、その光の余韻を見送ります。
国立天文台よりダウンロード
「ラ」Aで始まり、「ラ」Aで終わったやまねこ座。この星座を形作る恒星は本当に暗く、実際の星空の中から見つけ出すのは不可能に近いかもしれません。コロラドの画像においても目を凝らして選び取るような作業になりましたが、見つけるためのポイントはあります。ぎょしゃ座 Aurigaの主星カペラ Capellaからの延長上にやまねこ座の α星があります。もう一方の端である 15番星は、ふたご座 Geminiのカストル Castorとポルックス Polluxを繋ぐ線の延長にあります。やまねこ座から北極星 Polarisを見つけるには、15番星の延長上にきりん座の α星を探すと良いでしょう。
やまねこ座の曲は、シサスクの師匠であったエストニアの作曲家レネ・エースペレ René Eespereに献呈されました。ミニマルミュージック的なやまねこ座の音楽はエースペレの作風を思わせるところがあります。師匠というのは、例えその元から離れ、独自の道を歩んでいったとしても、心の中にずっと存在し続けるのではないでしょうか。
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