ペガスス座 Pegasus
天空への旅 A Journey to Heaven
ペガスス座の北の境界には、天の川のかすかな塵とともに多くの星と銀河の美しい光景があります。右上に目立つのは 5000万光年にある渦巻銀河 NGC 7331です。左下には、よく見ると5つほど銀河が密集しているのがわかりますか? 「ステファンの五つ子銀河」Stephan's Quintetと呼ばれる小さな銀河群です。 渦巻銀河 NGC 7331とこの銀河群の拡大画像を見てみましょう。
ペガスス座の北の境界には、天の川のかすかな塵とともに多くの星と銀河の美しい光景があります。右上に目立つのは 5000万光年にある渦巻銀河 NGC 7331です。左下には、よく見ると5つほど銀河が密集しているのがわかりますか? 「ステファンの五つ子銀河」Stephan's Quintetと呼ばれる小さな銀河群です。
渦巻銀河 NGC 7331とこの銀河群の拡大画像を見てみましょう。
1877年、エドゥアール・ステファン Édouard Stephanが発見したことでその名がついた「ステファンの五つ子銀河」Stephan's Quintetは、NGC 7320(左上)、NGC 7319(右上)、双子のようなNGC 7318A、7318B、左下の NGC 7317の合わせて 5つから成っています。左上の青みがかった NGC 7320以外は、重力による相互作用で歪んだループや尾を持っています。NGC 7320は 4000光年にある渦巻銀河、他の 4つの銀河は 3億光年にあります。これらの銀河は将来、衝突して合体する可能性があります。
10万個以上の星からなる巨大な球状星団 M15は、35000光年の彼方にあます。直径は 200光年、星の半分以上は中心から 10光年ほどのところに集まっていて、ブラックホールも存在するのではないかと考えられています。また M15は球状星団としては初めて惑星状星雲が見つかったことでも有名で、この画像にも中央下に青く光っています。1928年にこれを発見したアメリカの天文学者ピーズ Francis Peaseの名に因み、「ピーズ 1」Pease 1と呼ばれています。
NGC 7479は 1億1000万光年にある棒渦巻銀河です。反時計回りに回転し、逆向きの「S」を描く独特な形状から「プロペラ銀河」Propeller galaxyと呼ばれています。1990年と 2009年に超新星爆発を起こしたことが観測されており、天文学者の注目が集まっています。中心には超巨大ブラックホールが潜み、激しい星生成活動が行われています。
NGC 7814: Little Sombrero with Supernova
NGC 7814は 4000万光年にあり、直径は 6万光年と推定されています。有名な M104「ソンブレロ銀河」(おとめ座)に似ているエッジオン銀河で、大きさがそれより小さいことから「小ソンブレロ」Little Sombrero と呼ばれています。画像をよく見ると円盤の中心部左に明るい星が一粒乗っているように写っていますが、これは超新星爆発を起こして輝いている星 supernova SN2021rhuで、2017年に発見されました。
シサスクによるペガスス座の星座図です。赤線のある銀河については NASA画像でご紹介しました。大きな四角形がこの星座の特徴で、北半球では秋の夜空を彩ることから「秋の大四辺形」と呼ばれています。青い点線はシサスクは繋いでいないのですが、馬の前足の部分として繋いでいる星座図も多いので、参考までに書き入れてみました。ペガスス座を形作っている10個の恒星の名前とその意味も確認しておきましょう。
α Markab 馬の鞍(サドル) β Scheat 肩、上腕 γ Algenib 翼、脇腹 ε Enif 馬の鼻 ζ Homan 王の守り神 η Matar 雨の守り神 θ Biham 羊の守り神 μ Sadalbari 知識人の守り神 ※1 κ Kerb 空飛ぶ馬 κ Alpheratz 馬のへそ ※2
※1 シサスクは μ星に Sadalbari という名前を書き入れていません。※2 この星座図には「秋の大四辺形」の左の角の星に名前がありませんが、それは現在、その星がアンドロメダ座に属しているためでしょう。もともとはペガスス座とアンドロメダ座の両方に属す星となっていたようで、ペガスス座に相応しい名前の方が残ったと考えられています。
ペガスス座の恒星名はすべてアラビア語に由来するものです。ペガスス(あるいはペガサス)といえば、ギリシャ神話に登場する天馬というイメージが強いですが、なぜラテン語ではなくアラビア語なのでしょうか。 星座の歴史はギリシャ神話が生まれるよりもずっと前のメソポタミア文明まで遡るといわれていますが、星座が広まるきっかけとなったのは、古代ローマ(ギリシャ)の天文学者プトレマイオスClaudius Ptolemæus の著作『アルマゲスト』Almagest (紀元後 150年)でした。ギリシャ語からラテン語への翻訳が進むと同時に、スペインにも進出していたイスラムの天文学者によってアラビア語への翻訳も始まりました。 一方、アラビア語の天文書として最も優れているのは、ペルシア(現在のイラン)の天文学者スーフィAbd al-Rahman al-Sufi による『星座の書』Kitāb Ṣuwar al-kawākib (al-thābitah) [Book of pictures of the (fixed) stars](964年)です。『アルマゲスト』を基礎とした星座絵を含む詳細な記述は、後世に多大な影響を与えました。この『星座の書』は現在、オックスフォード大学のボードリアン図書館で全てデジタル化され、しかも公開中でどなたでも見ることができます。(リンクはこちらをクリック→星座の書)
10万個以上の星からなる巨大な球状星団 M15は、35000光年の彼方にあます。直径は 200光年、星の半分以上は中心から 10光年ほどのところに集まっていて、ブラックホールも存在するのではないかと考えられています。また M15は球状星団としては初めて惑星状星雲が見つかったことでも有名で、この画像にも中央下に青く光っています。1928年にこれを発見したアメリカの天文学者ピーズ Francis Peaseの名に因み、「ピーズ 1」Pease 1と呼ばれています。
NGC 7479は 1億1000万光年にある棒渦巻銀河です。反時計回りに回転し、逆向きの「S」を描く独特な形状から「プロペラ銀河」Propeller galaxyと呼ばれています。1990年と 2009年に超新星爆発を起こしたことが観測されており、天文学者の注目が集まっています。中心には超巨大ブラックホールが潜み、激しい星生成活動が行われています。
NGC 7814: Little Sombrero with Supernova
NGC 7814は 4000万光年にあり、直径は 6万光年と推定されています。有名な M104「ソンブレロ銀河」(おとめ座)に似ているエッジオン銀河で、大きさがそれより小さいことから「小ソンブレロ」Little Sombrero と呼ばれています。画像をよく見ると円盤の中心部左に明るい星が一粒乗っているように写っていますが、これは超新星爆発を起こして輝いている星 supernova SN2021rhuで、2017年に発見されました。
シサスクによるペガスス座の星座図です。赤線のある銀河については NASA画像でご紹介しました。大きな四角形がこの星座の特徴で、北半球では秋の夜空を彩ることから「秋の大四辺形」と呼ばれています。青い点線はシサスクは繋いでいないのですが、馬の前足の部分として繋いでいる星座図も多いので、参考までに書き入れてみました。ペガスス座を形作っている10個の恒星の名前とその意味も確認しておきましょう。
α Markab 馬の鞍(サドル)
β Scheat 肩、上腕
γ Algenib 翼、脇腹
ε Enif 馬の鼻
ζ Homan 王の守り神
η Matar 雨の守り神
θ Biham 羊の守り神
μ Sadalbari 知識人の守り神 ※1
κ Kerb 空飛ぶ馬
κ Alpheratz 馬のへそ ※2
※1 シサスクは μ星に Sadalbari という名前を書き入れていません。
※2 この星座図には「秋の大四辺形」の左の角の星に名前がありませんが、それは現在、その星がアンドロメダ座に属しているためでしょう。もともとはペガスス座とアンドロメダ座の両方に属す星となっていたようで、ペガスス座に相応しい名前の方が残ったと考えられています。
ペガスス座の恒星名はすべてアラビア語に由来するものです。ペガスス(あるいはペガサス)といえば、ギリシャ神話に登場する天馬というイメージが強いですが、なぜラテン語ではなくアラビア語なのでしょうか。
星座の歴史はギリシャ神話が生まれるよりもずっと前のメソポタミア文明まで遡るといわれていますが、星座が広まるきっかけとなったのは、古代ローマ(ギリシャ)の天文学者プトレマイオスClaudius Ptolemæus の著作『アルマゲスト』Almagest (紀元後 150年)でした。ギリシャ語からラテン語への翻訳が進むと同時に、スペインにも進出していたイスラムの天文学者によってアラビア語への翻訳も始まりました。
一方、アラビア語の天文書として最も優れているのは、ペルシア(現在のイラン)の天文学者スーフィAbd al-Rahman al-Sufi による『星座の書』Kitāb Ṣuwar al-kawākib (al-thābitah) [Book of pictures of the (fixed) stars](964年)です。『アルマゲスト』を基礎とした星座絵を含む詳細な記述は、後世に多大な影響を与えました。この『星座の書』は現在、オックスフォード大学のボードリアン図書館で全てデジタル化され、しかも公開中でどなたでも見ることができます。(リンクはこちらをクリック→星座の書)
『星座の書』Kitāb Ṣuwar al-kawākib にはペガスス座の美しい星座絵もあります。Wikipedia にも公開されている画像を見つけましたので転載します。「大四辺形」もしっかり描かれていますし、恒星の固有名の書き込みも 10個あることが確認できます。
シサスクのペガスス座のイメージは「天空への旅」。「天国への道」と訳してもよいかもしれません。
アラビアの『星座の書』の話まで持っていったのには 2つの理由があります。一つは上にも書いた通り、恒星の固有名がすべてアラビア語由来だったから。もう一つはシサスクの音楽を見ていて気になったことがあったからです。シサスクにしては珍しく、神話の主人公である天馬 Pegasusの動きを説明まで加えて音楽に表しており、Pegasusにまたがる騎士も登場します。明らかにストーリー性があります。テーマの旋律はアラブ風とまでは言えませんが、どことなくヨーロッパ的ではない感じなのです。
Pegasusあるいは白馬伝説に関する話を調べてみると、ギリシャ神話のみならず、ケルト神話、北欧神話、スラヴ神話、インド神話、そして様々な宗教に至るまで世界各国に伝説があることがわかりました。その中でシサスクの音楽に近いかもしれないのは、イスラムの伝説ではないかと感じたのです。その簡単なあらすじは、ブラク Buraqと呼ばれる翼のある馬がムハンマド(イスラム教の創唱者)を天国へ運ぶというものです。(興味のある方は Buraq と検索してみてください。どんな馬なのかが見つかります。) シサスクはアラブ音楽に興味を持っており、ヨーロッパ以外の伝説について知っていた可能性は高いと思います。イスラムの話を取り入れようとしたかどうかは何ともわかりません。ただ、彼は星座図を書きながら、アラビアとの関連に思いを馳せていたのではないかと考えるのは不自然なことではないと思います。
シサスクは Pegasus と騎士を音楽で表しています。【1】前奏:「むかしむかし・・」と物語が始まり、幕が開きます(フェルマータ)
The Rider:騎士が舞台に駆け込んできて(accel.)立ち止まります(rit. & ’ ) 【2】騎士のテーマの終わりは仄かに明るく終わります。前奏は a-mollで翳りがあったのに、どうして A-dur(赤枠) なのでしょう。この騎士のテーマでは、大事なことが語り尽くされているのです。
【3】Pegasus が地面を蹴る音はどんどん激しくなっていき・・cluster with forearms:鍵盤のこの音域を左右の上腕でクラスターgliss. on strings:ピアノの弦を両手で反対方向にグリッサンド
一体、何が起きるのでしょうか。
The Wingspan:Pegasusが翼を大きく広げ始めます。Pegasusの音楽は小節線が点線になっています。境界線のない天空を自由に飛び回る Pegasusの雄大さが表現されているのではないでしょうか。続く譜例は省略しますが、途中、wind under the hoove ひづめの下に風、the takeoff 離陸といった補足があります。
【4】Pegasusが空へ飛び立つシーンにはこんなことが書かれています。飛べ、Pegasus!
【5】Pegasusは騎士を背中に乗せます。騎士(テーマの断片)と Pegasusが交わうような音楽が繰り広げられます。
【6】Pegasusは騎士をどこへ運んだのでしょうか。騎士は過去を振り返りつつも(青枠:a-moll)、地上に別れを告げるのです。
The Heaven:苦しみから解放される天国。永遠の安らぎ(赤枠:A-dur)が訪れます。冒頭の「騎士のテーマ」には天国への道が示されていたことがわかります。
『星座の書』Kitāb Ṣuwar al-kawākib にはペガスス座の美しい星座絵もあります。Wikipedia にも公開されている画像を見つけましたので転載します。「大四辺形」もしっかり描かれていますし、恒星の固有名の書き込みも 10個あることが確認できます。
シサスクのペガスス座のイメージは「天空への旅」。「天国への道」と訳してもよいかもしれません。
アラビアの『星座の書』の話まで持っていったのには 2つの理由があります。一つは上にも書いた通り、恒星の固有名がすべてアラビア語由来だったから。もう一つはシサスクの音楽を見ていて気になったことがあったからです。シサスクにしては珍しく、神話の主人公である天馬 Pegasusの動きを説明まで加えて音楽に表しており、Pegasusにまたがる騎士も登場します。明らかにストーリー性があります。テーマの旋律はアラブ風とまでは言えませんが、どことなくヨーロッパ的ではない感じなのです。
Pegasusあるいは白馬伝説に関する話を調べてみると、ギリシャ神話のみならず、ケルト神話、北欧神話、スラヴ神話、インド神話、そして様々な宗教に至るまで世界各国に伝説があることがわかりました。その中でシサスクの音楽に近いかもしれないのは、イスラムの伝説ではないかと感じたのです。その簡単なあらすじは、ブラク Buraqと呼ばれる翼のある馬がムハンマド(イスラム教の創唱者)を天国へ運ぶというものです。(興味のある方は Buraq と検索してみてください。どんな馬なのかが見つかります。)
シサスクはアラブ音楽に興味を持っており、ヨーロッパ以外の伝説について知っていた可能性は高いと思います。イスラムの話を取り入れようとしたかどうかは何ともわかりません。ただ、彼は星座図を書きながら、アラビアとの関連に思いを馳せていたのではないかと考えるのは不自然なことではないと思います。
シサスクは Pegasus と騎士を音楽で表しています。
【1】
前奏:「むかしむかし・・」と物語が始まり、幕が開きます(フェルマータ)
The Rider:騎士が舞台に駆け込んできて(accel.)立ち止まります(rit. & ’ )
【2】
騎士のテーマの終わりは仄かに明るく終わります。前奏は a-mollで翳りがあったのに、どうして A-dur(赤枠) なのでしょう。この騎士のテーマでは、大事なことが語り尽くされているのです。
【3】
Pegasus が地面を蹴る音はどんどん激しくなっていき・・
cluster with forearms:鍵盤のこの音域を左右の上腕でクラスター
gliss. on strings:ピアノの弦を両手で反対方向にグリッサンド
一体、何が起きるのでしょうか。
The Wingspan:Pegasusが翼を大きく広げ始めます。Pegasusの音楽は小節線が点線になっています。境界線のない天空を自由に飛び回る Pegasusの雄大さが表現されているのではないでしょうか。続く譜例は省略しますが、途中、wind under the hoove ひづめの下に風、the takeoff 離陸といった補足があります。
【4】
Pegasusが空へ飛び立つシーンにはこんなことが書かれています。
飛べ、Pegasus!
【5】
Pegasusは騎士を背中に乗せます。騎士(テーマの断片)と Pegasusが交わうような音楽が繰り広げられます。
【6】
Pegasusは騎士をどこへ運んだのでしょうか。
騎士は過去を振り返りつつも(青枠:a-moll)、地上に別れを告げるのです。
The Heaven:苦しみから解放される天国。永遠の安らぎ(赤枠:A-dur)が訪れます。冒頭の「騎士のテーマ」には天国への道が示されていたことがわかります。
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