白鳥座 Cygnus
超空洞 Void
燃えるような星とガス雲の上空を白鳥が飛行しています。星を繋いでみます。
夏の大三角の主役的存在、はくちょう座のデネブ Deneb(尾)、心臓部のサドル Sadr(胸)、そして翼の星がくっきりと輝いています。アルビレオ Albireo(くちばし) は画像から外れ、右下の方にあるはずです。シサスクによる下の星座図を参照してください。 はくちょう座には多くの星雲、星団があるほか、みなみじゅうじ座にコール・サック(石炭袋)Coal Sack Nebulaがあるようにデネブの左下あたりに暗黒帯「北のコールサック」Northern Coal Sack Nebulaがあります。また十字の左下の暗い部分は、グレート・リフト(巨大な裂け目)Great Rift と呼ばれる天の川で最大級の星形成領域です。 デネブのすぐ左には 「北アメリカ星雲」 NGC 7000、「ペリカン星雲」 IC 5067、5070 が赤々と輝き、翼の下(画像左下)では「ヴェール星雲」Veil Nebulaが存在をアピールしています。
NASA画像の見つかった天体(上図の青線)を個別に見ていきましょう。
NGC 6826は 2200光年にある惑星状星雲で「まばたき星雲」Blinking Eye Nebulaと呼ばれています。目のように見えるからではなく、小さな望遠鏡で直視する場合、明るい中心星から目をそらすようにしないと他の部分が見えないからだとか。つまり観測する側がまばたきしているように見えるということでしょうか。左右に赤く光っている部分は、電荷を帯びた原子が超音速で宇宙空間に飛び出している状態とのことです。
2300光年にある散光星雲 NGC 6992は「ヴェール星雲」Veil Nebula、あるいは「網状星雲」と呼ばれ、 7500年前に超新星爆発で飛び散った残骸の一部と見られています。飛び散った残骸の全範囲は「はくちょう座ループ」Cygnus Loopと呼ばれ、 50光年にも及ぶその領域は「東ヴェール星雲」Eastern Veilと「西ヴェール星雲」Western Veilに分けられています。この NGC 6992は「東」に属します。
NGC 6995は「東ヴェール星雲」に属す 1400光年にある超新星残骸で、「こうもり星雲」Bat Nebulaとも呼ばれています。幅は12光年に及びます。
はくちょう座には 21個の散開星団があるようですが、これは NASAギャラリーに見つかった唯一の散開星団 M39です。800光年しか離れていないためか明るい星が多く、双眼鏡では天の川の中に三角の形で見つけることができるそうです。
1500光年の彼方に幅150光年に及ぶ大きな散光星雲があります。左側を NGC 7000「北アメリカ星雲」North America Nebula、右側を IC 5070「ペリカン星雲」Pelican Nebulaというのですが、見分けがつきますか? 北アメリカ大陸(カナダ、USA、メキシコ)の特にメキシコ湾辺りがよく似ています。ペリカンは横顔で大きなくちばし、目もあるでしょうか。
星雲の間から強い光線を発している星ははくちょう座の心臓部、十字の中心の星、サドル Sadrです。この星の周囲には散光星雲や散開星団が広がっていて、シサスクの星座図ではその領域が放射線状に斜線で表されています。サドルまでの距離は 1800光年です。
丸い塊の名は「三日月星雲」Crescent Nebula、散光星雲 NGC 6888です。光の当たり方によっては三日月に見えるのでしょう。これは 超新星爆発で外皮が剥がれ、まもなく一生を終えようとしている星です。5000光年にあり、大きさは 25光年とのことです。
シサスクのはくちょう座のイメージは「超空洞」。 楽譜上では、エストニア語 Tühjusの英訳が Emptinessとなっているため、これまで「空虚」と訳していましたが、2020年にエストニアから持ち帰った辞書を改めて確認したところ、Voidという訳が載っており、こちらの意味に間違いないと確信しました。「空虚」というと捉え方が人によって変わってきそうですが、Voidならば違和感はないのではないでしょうか。 Voidは様々な業界で「ボイド」と訳さずそのままですが、天文分野では、宇宙の大規模構造において光を発する天体がほとんどない領域のことを「ボイド」または「超空洞」といいます。サブタイトルとしては「超空洞」を採用しますが、「ボイド」についてはうしかい座(参照:8. うしかい座)でも一度、説明していますので、参考になさってください。 はくちょう座にはボイドが存在するわけではないのですが、画像自体からまさにボイドを連想させるものが多くありました。何も見えない真っ暗な空洞のような部分であったり、泡のような網目のような構造に見えたりするのが、シサスクには「ボイド」に思えたのでしょう。
シサスクのはくちょう座の音楽の最大の特徴は拍子がなく、構造的に大きな区切れとなる二重線以外に小節線が一本もないことです。冒頭には Tempo rubato al fineとあり、自由なテンポで演奏することが求められています。しかし拍子もないことから、長い音符やフェルマータには秒数でその長さが示されています。(譜例1)
【譜例1】 冒頭部分です。白音符の上には2秒、4秒、8秒などと書かれています。Tempo rubato とありますが、秒数の記された音については時間通り正確に演奏すべきでしょう。
はくちょう座の音楽は、大きく 4つの部分から成っていて、各部分の終わりには演奏時間が記されています。(譜例2) Tempo rubatoというのに時間の指定があるのは、まるで泡構造の各ボイド(空洞)に広がりの限界があるかのようです。演奏時間がどのようになっているか見てみましょう。
前奏 :36秒第1部:40秒第2部:55秒第3部:30秒第4部:45秒
第1部と第3部は音楽的に似通っていて、ふたご座のような連打音も見られます。ふたご座とはくちょう座は天球上で表と裏のような位置関係ですので、もしかしたらそのことを連打音で暗示しているのかもしれません。
第2部にはヘルクレス座(参照:77. ヘルクレス座)以来ぶりに、なんと「クイッティ・フイッティ」Kuijti-Huijtiが登場します。「クイッティ・フイッティ」についてはきりん座で仄めかし、ヘルクレス座では断片的なメロディが登場しました。はくちょう座ではヒエログリフも復活します。(譜例2)
【譜例2】
第1部での連打音は、じょうぎ座で現れたテーマ「クイッティ・フイッティ」の中間部分の予感でもあったのですね。テーマの主要部分は現れないままですが、はくちょう座の音楽では、この第2部の演奏時間が一番長くなっています。
ここまで見たところで、細かい秒数で記された演奏時間について、謎解きを試みたいと思います。まず各部で使われている音域を見てみましょう。
まず緑の囲みを見てください。第2部の「クイッティ・フイッティ」Kuijti-Huijtiを中心として、見た目にもシンメトリックになっていることがわかりますし、演奏時間についても前奏+第1部= 76秒、第3部+第4部= 75秒とほとんど同じです。 次に青い囲みを見てください。第2部+第3部= 85秒、その外側の第1部+第4部= 85秒と同じになります。 以上のことは何を意味しているでしょう。緑の囲みははくちょう座の翼の広がりを表し、青の囲みははくちょう座の中心部の形、すなわち十字架を表していると考えられます。簡略化した星座図に以上のことをまとめてみましょう。
まず翼の広がりです。白鳥の頭は Albireo、0〜2 が左側の翼、2〜4 が右側の翼になります。左の方が若干長い(星座図はもっと長いのですが)ので、このように考えました。 十字架部分は縦が長いので、第2部の55秒を一番長い部分に持ってきました。はくちょう座は南半球の南十字星(みなみじゅうじ座)に対して「北十字」と呼ばれることがあります。 シサスクははくちょう座のイメージを天文家らしく「ボイド」としながらも、この星座の美しい姿を音楽によってきめ細やかに織り込むことも忘れていませんでした。
しかしはくちょう座の音楽の最後は、天の川のグレート・リフト(巨大な裂け目) Great Riftに突入したかのような破壊的な ffffに達します。グレート・リフトははくちょう座だけにあるわけではありませんが、次の画像からははくちょう座のかなりの部分を占めているように見えます。
シサスクも星座図に LINNUTEE VÄRAV と書き入れており、それがグレート・リフトなのかどうか確認したところ、エストニア語の直訳は gateway to the Milky Way(天の川への入口)で、「裂け目」という意味は見つかりませんでした。「裂け目」というと、そこに落ちたら二度と戻れないイメージですが、「入口」なら別世界へ行けそうなイメージが生まれてきます。 はくちょう座の終わりで ffffに達した瞬間は「裂け目」のイメージなのですが・・(譜例3)
【譜例3】 弦のグリッサンド後、響きはなかなか無くなりません。天の川の扉は開きました。とにかくその響きを見失わないようついていってください!
はくちょう座にも A(ラ)の最低音、最高音が現れました。北極星との繋がりはどうでしょうか。はくちょう座のアルビレオ Albireoは北極星 Polarisのみならず、ぎょしゃ座 Aurigaのカペラ Capella、そしておうし座 Taurusのアルデバラン Aldebaranにも繋がりました。 クイッティ・フイッティ Kuijti-Huijti が現れたことから、プレアデス星団との繋がりを見てみると、はくちょう座のデネブ Denebはカシオペヤ座 Cassiopeia、ペルセウス座 Perseus を経て、プレアデスに繋がっています。 そして、はくちょう座はヘルクレス座 Hercules 、かんむり座 Corona Borealis と同緯度に並んでいます。
銀河巡礼〜すべての星座たちへ・・次回は、いよいよ最終回。 最後の星座は・・かんむり座です。
燃えるような星とガス雲の上空を白鳥が飛行しています。星を繋いでみます。
夏の大三角の主役的存在、はくちょう座のデネブ Deneb(尾)、心臓部のサドル Sadr(胸)、そして翼の星がくっきりと輝いています。アルビレオ Albireo(くちばし) は画像から外れ、右下の方にあるはずです。シサスクによる下の星座図を参照してください。
はくちょう座には多くの星雲、星団があるほか、みなみじゅうじ座にコール・サック(石炭袋)Coal Sack Nebulaがあるようにデネブの左下あたりに暗黒帯「北のコールサック」Northern Coal Sack Nebulaがあります。また十字の左下の暗い部分は、グレート・リフト(巨大な裂け目)Great Rift と呼ばれる天の川で最大級の星形成領域です。
デネブのすぐ左には 「北アメリカ星雲」 NGC 7000、「ペリカン星雲」 IC 5067、5070 が赤々と輝き、翼の下(画像左下)では「ヴェール星雲」Veil Nebulaが存在をアピールしています。
NASA画像の見つかった天体(上図の青線)を個別に見ていきましょう。
NGC 6826は 2200光年にある惑星状星雲で「まばたき星雲」Blinking Eye Nebulaと呼ばれています。目のように見えるからではなく、小さな望遠鏡で直視する場合、明るい中心星から目をそらすようにしないと他の部分が見えないからだとか。つまり観測する側がまばたきしているように見えるということでしょうか。左右に赤く光っている部分は、電荷を帯びた原子が超音速で宇宙空間に飛び出している状態とのことです。
2300光年にある散光星雲 NGC 6992は「ヴェール星雲」Veil Nebula、あるいは「網状星雲」と呼ばれ、 7500年前に超新星爆発で飛び散った残骸の一部と見られています。飛び散った残骸の全範囲は「はくちょう座ループ」Cygnus Loopと呼ばれ、 50光年にも及ぶその領域は「東ヴェール星雲」Eastern Veilと「西ヴェール星雲」Western Veilに分けられています。この NGC 6992は「東」に属します。
はくちょう座には 21個の散開星団があるようですが、これは NASAギャラリーに見つかった唯一の散開星団 M39です。800光年しか離れていないためか明るい星が多く、双眼鏡では天の川の中に三角の形で見つけることができるそうです。
1500光年の彼方に幅150光年に及ぶ大きな散光星雲があります。左側を NGC 7000「北アメリカ星雲」North America Nebula、右側を IC 5070「ペリカン星雲」Pelican Nebulaというのですが、見分けがつきますか? 北アメリカ大陸(カナダ、USA、メキシコ)の特にメキシコ湾辺りがよく似ています。ペリカンは横顔で大きなくちばし、目もあるでしょうか。
丸い塊の名は「三日月星雲」Crescent Nebula、散光星雲 NGC 6888です。光の当たり方によっては三日月に見えるのでしょう。これは 超新星爆発で外皮が剥がれ、まもなく一生を終えようとしている星です。5000光年にあり、大きさは 25光年とのことです。
シサスクのはくちょう座のイメージは「超空洞」。
楽譜上では、エストニア語 Tühjusの英訳が Emptinessとなっているため、これまで「空虚」と訳していましたが、2020年にエストニアから持ち帰った辞書を改めて確認したところ、Voidという訳が載っており、こちらの意味に間違いないと確信しました。「空虚」というと捉え方が人によって変わってきそうですが、Voidならば違和感はないのではないでしょうか。
Voidは様々な業界で「ボイド」と訳さずそのままですが、天文分野では、宇宙の大規模構造において光を発する天体がほとんどない領域のことを「ボイド」または「超空洞」といいます。サブタイトルとしては「超空洞」を採用しますが、「ボイド」についてはうしかい座(参照:8. うしかい座)でも一度、説明していますので、参考になさってください。
はくちょう座にはボイドが存在するわけではないのですが、画像自体からまさにボイドを連想させるものが多くありました。何も見えない真っ暗な空洞のような部分であったり、泡のような網目のような構造に見えたりするのが、シサスクには「ボイド」に思えたのでしょう。
シサスクのはくちょう座の音楽の最大の特徴は拍子がなく、構造的に大きな区切れとなる二重線以外に小節線が一本もないことです。冒頭には Tempo rubato al fineとあり、自由なテンポで演奏することが求められています。しかし拍子もないことから、長い音符やフェルマータには秒数でその長さが示されています。(譜例1)
【譜例1】
冒頭部分です。白音符の上には2秒、4秒、8秒などと書かれています。Tempo rubato とありますが、秒数の記された音については時間通り正確に演奏すべきでしょう。
前奏 :36秒
第1部:40秒
第2部:55秒
第3部:30秒
第4部:45秒
第1部と第3部は音楽的に似通っていて、ふたご座のような連打音も見られます。ふたご座とはくちょう座は天球上で表と裏のような位置関係ですので、もしかしたらそのことを連打音で暗示しているのかもしれません。
第2部にはヘルクレス座(参照:77. ヘルクレス座)以来ぶりに、なんと「クイッティ・フイッティ」Kuijti-Huijtiが登場します。「クイッティ・フイッティ」についてはきりん座で仄めかし、ヘルクレス座では断片的なメロディが登場しました。はくちょう座ではヒエログリフも復活します。(譜例2)
【譜例2】
ここまで見たところで、細かい秒数で記された演奏時間について、謎解きを試みたいと思います。まず各部で使われている音域を見てみましょう。
まず緑の囲みを見てください。第2部の「クイッティ・フイッティ」Kuijti-Huijtiを中心として、見た目にもシンメトリックになっていることがわかりますし、演奏時間についても前奏+第1部= 76秒、第3部+第4部= 75秒とほとんど同じです。
次に青い囲みを見てください。第2部+第3部= 85秒、その外側の第1部+第4部= 85秒と同じになります。
以上のことは何を意味しているでしょう。緑の囲みははくちょう座の翼の広がりを表し、青の囲みははくちょう座の中心部の形、すなわち十字架を表していると考えられます。簡略化した星座図に以上のことをまとめてみましょう。
まず翼の広がりです。白鳥の頭は Albireo、0〜2 が左側の翼、2〜4 が右側の翼になります。左の方が若干長い(星座図はもっと長いのですが)ので、このように考えました。
十字架部分は縦が長いので、第2部の55秒を一番長い部分に持ってきました。はくちょう座は南半球の南十字星(みなみじゅうじ座)に対して「北十字」と呼ばれることがあります。
シサスクははくちょう座のイメージを天文家らしく「ボイド」としながらも、この星座の美しい姿を音楽によってきめ細やかに織り込むことも忘れていませんでした。
しかしはくちょう座の音楽の最後は、天の川のグレート・リフト(巨大な裂け目) Great Riftに突入したかのような破壊的な ffffに達します。グレート・リフトははくちょう座だけにあるわけではありませんが、次の画像からははくちょう座のかなりの部分を占めているように見えます。
シサスクも星座図に LINNUTEE VÄRAV と書き入れており、それがグレート・リフトなのかどうか確認したところ、エストニア語の直訳は gateway to the Milky Way(天の川への入口)で、「裂け目」という意味は見つかりませんでした。「裂け目」というと、そこに落ちたら二度と戻れないイメージですが、「入口」なら別世界へ行けそうなイメージが生まれてきます。
はくちょう座の終わりで ffffに達した瞬間は「裂け目」のイメージなのですが・・(譜例3)
【譜例3】
弦のグリッサンド後、響きはなかなか無くなりません。天の川の扉は開きました。とにかくその響きを見失わないようついていってください!
はくちょう座にも A(ラ)の最低音、最高音が現れました。北極星との繋がりはどうでしょうか。はくちょう座のアルビレオ Albireoは北極星 Polarisのみならず、ぎょしゃ座 Aurigaのカペラ Capella、そしておうし座 Taurusのアルデバラン Aldebaranにも繋がりました。
クイッティ・フイッティ Kuijti-Huijti が現れたことから、プレアデス星団との繋がりを見てみると、はくちょう座のデネブ Denebはカシオペヤ座 Cassiopeia、ペルセウス座 Perseus を経て、プレアデスに繋がっています。
そして、はくちょう座はヘルクレス座 Hercules 、かんむり座 Corona Borealis と同緯度に並んでいます。
銀河巡礼〜すべての星座たちへ・・次回は、いよいよ最終回。
最後の星座は・・かんむり座です。
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