67. カシオペヤ座 Cassiopeia

カシオペヤ座  Cassiopeia

流れ  Flowing - バラード Ballade

 9500光年にある散光星雲 NGC 281の内部では散開星団 IC 1590が見え隠れしています。星団からの強烈なエネルギー風と放射線は不思議な円柱を形作り、高温の星々の発光が星雲を輝かせています。




 600光年の彼方にふんわりと三角形を形作る 2つの反射星雲があります。左側が IC 59、右側が IC 63です。カシオペヤ座の γ星の光が反射することで輝いているのだそうです。γ星はこの画像には写っていませんが、右上にあり、こちら側に光を放っています。



 8000光年にある散開星団 NGC 7789には粒の揃った星が密集しており、望遠鏡で見たときの美しさは密かな人気を集めています。この星団の中のすべての星は同時に生まれた可能性が高いそうで、現在、16億歳とのことです。



 220万光年にある不規則銀河 IC 10 は天の川と重なるように位置しているため、観測しづらく、塵に覆われてぼんやりしています。星形成が活発で、生まれたばかりの星が多く、ブラックホールも存在していると考えられています。



 これは米国アリゾナ州フラッグスタッフ Flagstaff の星空です。フラッグスタッフは現在、国際的ダークスカイ協会 International Dark Sky Association の第1号に認定されています。夜空が隙間なく星で埋め尽くされているこうした光景を見たことのある人間はどれほどいるでしょうか。日本では「星空保護区」といいますが、「光害の影響のない暗い夜空の保護は自然保護にもつながり、もっと重要視されるべきである」とシサスクも話していました。ここには天の川銀河の無数の星の中に左下からカシオペヤ座ケフェウス座はくちょう座(下図)が浮かび上がっています。



 
 カシオペヤ座は北極星を挟んで北斗七星のほぼ反対側に見える星座です。カナダのケベック州のオーロラ画像には、左に北斗七星、右にカシオペヤ座、それらのちょうど間に北極星(こぐま座)が映し出されています。カシオペヤ座北斗七星はどちらも北極星を探し出す目印となっています。


 シサスクのカシオペヤ座のイメージは「流れ」。

 加えて「バラード」という副題も与えられています。「バラード」は《銀河巡礼》最終章の始まりであることを想起させる一方で、「流れ」からは季節により見え方が変化する天の川銀河や流星、あるいは刻み続けられる永遠の時間といったものを感じることができます。

 流星といえば、シサスク14歳の夏(1975年 8月)の出来事が思い起こされます。ペルセウス座流星群の降り注ぐ夜にカシオペヤ座を見つめていたら、初めての星座の曲《カシオペヤ座》が生まれ、全天に浮かぶ 88星座をピアノ音楽に書き表したいという特別な願いが彼の心に浮かんだといいます。一台のグランドピアノが翌日修理に出すため一晩だけ外に置いてあり、シサスクは星空に抱かれながらそのピアノを弾いて曲を作ったのです。このことも壮大な「バラード」の始まりといえるでしょう。彼はこの最初のカシオペヤ座》の曲を自身のコンサートで必ずと言ってよいほど、アンコール演奏していました。


 NASAにはペルセウス座流星群を映し出した多くの画像があります。この画像の左側はスロバキア、右側はチェコで撮影し、繋ぎ合わせています。左の画像はペルセウス座の方向から放射されている流星群が美しく、草原で見上げる人はまるで若きシサスクのようです。私はこの画像にカシオペヤ座を見つけました。




 
 《銀河巡礼》は『北半球の星空』に始まり、『南半球の星空』、『赤道の星空』と全天を巡ってきました。最終章となる『北極の星空』に集められた星座たちは、シサスクが幼い頃から見てきた最も親しみを感じている星座たちです。『北極の星空』はなぜカシオペヤ座から始まるのでしょう。思い出してください。『赤道の星空』の終曲「いて座」が指し示す さらなる未来の方向はカシオペヤ座でした。さらに『北半球の星空』の終曲は何の星座だったでしょう?・・ペルセウス座です。天の川の本流を背景として隣り合わせに位置するペルセウス座カシオペヤ座はここでも “流れ”として繋がったのです。NASA画像のペルセウス座流星群はそのことを祝福する花火のようにさえ見えてきます。

 ペルセウス座いて座カシオペヤ座の関係がわかったところで、それぞれの曲の最後の和音(譜例)を見てみましょう。順に鳴らしてみると、どこに向かっているかわからない未解決な終結だったペルセウス座が、いて座で安寧の地を感じるような深い響きの変ロ長調に落ち着き、カシオペヤ座で希望の光が射しこむような嬰ヘ長調に変化しています。シサスクがしっかり意図した「流れ」をここでも確認することができます。

【譜例】

    ペルセウス座
     

     いて座 
   
   
    カシオペヤ座
  
  

 しかし、シサスクのカシオペヤ座の曲調は実は嬰ヘ長調ではありません。調号はなく全体としては翳りのある曲調で、最後の和音は調性があるとすると、ロ短調の5度の和音と捉えるべきものです。終結したのではなく問いかけるような、何かがこれから始まろうとしている音楽になっているのです。さらにこの問いかけるような和音は、終わりだけでなく途中何度も立ち止まるかのようにフェルマータで現れます。 北から南への巡礼を終え、故郷へと帰ってきた安堵とともに、カシオペヤ座に話しかけているようでもあります。

 カシオペヤ座からの「バラード」。最後の旅路には、どんな世界が待っているでしょうか。







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