23. カメレオン座 Chamaeleon

カメレオン座  Chamaeleon

群がり  Swarming



 北半球の空に比べ、南半球には目立つ星座が少なく、認識することは容易ではありません。《銀河巡礼〜南半球の星空》では、肉眼による観測(みなみじゅうじ座のコールサック、大小マゼラン銀河など)と、望遠鏡による観測(ケンタウルス座きょしちょう座の散開星団、みなみじゅうじ座の宝石箱など)が作曲の基礎となっています。架空の星座を描いているのではなく、天文学者たちによって定められた星空の領域が反映されています。部分的には似通った音楽的印象を持ちつつも、それぞれの曲想は大きく異なっています。
                             
 上記は、シサスクによる《銀河巡礼〜南半球の星空》序文です。

 画像は南天の極の周りにある星の軌跡をナミビア(アフリカ南西部)にて、11時間にわたって撮影した作品です。(by 天文学者の Josch Hambsch)

 
 さあ、ここから南半球の星空へ。

 南半球の星座には大航海時代に発明された機械や道具の名前、南アフリカに実在するテーブル山、ニューギニアの極楽鳥である風鳥、インドに生息する孔雀、南米のくちばしの大きな鳥、巨嘴鳥(きょしちょう)、カメレオンなど、ヨーロッパでは見られない生物の名が数多く付けられています。


 《銀河巡礼〜南半球の星空》は、第1集《北半球の星空》Op.10 作曲の 6年後、1993年に書き始められ、1995年に完成しました。

 シサスクは実際にオーストラリア、シドニーに足を運び、星空を観測しただけでなく、先住民族のアボリジニとも会って、彼らの神話の世界「ドリームタイム」(生命の起源、天地創造、死後の世界)を体験しました。そして「オーストラリアのドリームタイム〜アボリジニ神話」(オーストラリアの人文学者 Charles P. Mountford(1890-1976)著、1990)を参考に、彼自身が物語も執筆したのです。




 《銀河巡礼〜南半球の星空》は「カメレオン座」から始まります。

 上の画像、右寄り下方にある ➕ South Celestial Pole は、南天の極を表しています。南半球の星空には南極星はありませんカメレオン座の形はこの画像には残念ながら示されていませんが、南天の極のやや右上、草むらの影に見えています。


The Chameleon's Dark Nebulae 

 カメレオン座は、保護色で身を隠すカメレオンのように明るい星がなく、目立ちません。上の画像は暗黒星雲群ですが、カメレオン座この宇宙塵の雲の割れ目に潜んでいます。シサスク自筆のカメレオン座(下図)とよく見比べて、探してみてください。







 これは、カメレオン座の領域にある惑星状星雲 NGC 3195 で、シサスク自筆の星座図(初版譜)にも書き込まれています。見かけが木星と同じくらいの大きさで、中型の望遠鏡でも見ることができるそうですから、シサスクもきっと観測したことでしょう。


 シサスクのカメレオン座のイメージは「群がり」。

 星雲や塵が群がる領域でも、色や形から、星座の存在を確かめることができました。

 シサスクのカメレオン座の音楽については、まず、以下の話から始める必要があります。

《北半球の星空》が完成した1987年、シサスクは太陽系の惑星の動きの分析から、 C# -D - F# - G# - A という「惑星の音階(プラネット・スケール)」を発見しました。それは偶然にも日本の五音音階と一致しており、彼の代表作である宗教曲《グローリア・パトリ》(1988)に早速使われました。《南半球の星空》にはこの「プラネット・スケール」のほか、倍音列の配列と似たシサスク独自の音列も用いられています。また各星座には、基本となる音(私はそれを「支配する音」と考えています)があり、その音が各星座の位置関係であったり、南半球の星空間を大きく循環する流れをつくっていることもわかりました。

 というわけで、カメレオン座がとりわけ日本人に馴染みのある音楽に感じられるのは、日本の五音音階と一致するプラネット・スケールが使われたためと言えそうです。「群がり」のイメージは、分散和音、急速な三連符、アルペジョによる音の転がりや広がりにも感じられます。カメレオン座は小さな星座なのに、クライマックスは fff まで達し、曲の長さもあるので、これを《南半球の星空》全体のプロローグと捉えるのも良いかもしれません。南天の極に近いカメレオン座を中心に廻る、星の軌跡を想像しながら、スケールの大きい演奏をしたいものです。



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