37. ほ座 Vela

帆座  Vela

嵐  Tempest

Vela Supernova Remnant Mosaic

 これはほ座からとも座にかけて直径 1050光年にわたって広が「ガム星雲 Gum Nebula」です。1万年以上前の「超新星」の光が届いているのだそうです。
「超新星」とは、夜空に突如、明るい星が誕生したように輝いて見えることから、そう言われていますが、実際は恒星がその一生を終えるときに起こす大規模な爆発現象のことです。超新星爆発が起きると、音速を超えるような猛烈な衝撃波で恒星物質のほとんどが吹き飛ばされます。「ガム星雲」では、今でも当時の超新星爆発の残骸が拡散し続けています。地球からの距離は、近いところで 450光年、最も遠くで 1500光年あるといわれています。ガムとは、この星雲を発見したオーストラリアの天文学者 Colin Stanley Gum (1924-60)の名に因みます。


NGC 3132: The Southern Ring Nebula

 このNGC 3132 は地球から 2000光年と推定される惑星状星雲で、別名を「8の字星雲」、あるいは「南のリング星雲」といいます。小型の望遠鏡で見ると、8の字のように見えるとのこと。一方、「南のリング星雲」の名はこと座のリング星雲 M57 に対する呼び名でもあります。
 惑星状星雲は太陽に似た恒星の晩年の姿です。周囲に放出されるガスが、中心星から放射される強い紫外線によって輝いているのだそうです。ガスが流れ続けると中心星はむき出しになり、やがてガスがなくなると、核融合ができなくなって死を迎えます。



 ほ座にある、この美しい球状星団 NGC 3201には 2018年、ブラックホールが見つかったそうです。球状星団にブラックホールが見つかるのは初めてのことで、まだまだ謎が多いようです。
 





 シサスク自筆のほ座の星座図には、多くの星が書き込まれています。船の帆を形作るほ座は天の川にもまたがっており、南半球では華やかな星座として親しまれているそうです。

 しかし、シサスクのほ座のイメージは「嵐」。

 この領域にある主要な天体が命の終わりを見せているからでしょうか。超新星残骸の画像には多数の稲妻のような光の筋もあります。リング星雲からはガスが漏れ続け、一見、華やかな球状星団にはブラックホールがある・・。ギリシャ神話のアルゴ船の話にも、
嵐に見舞われたり、通過が困難な難所を進むシーンなどがあります。予測できない結末は宇宙にもあるのでしょうか。

 シサスクのほ座の音楽は、全88星座の曲の中で最も内部奏法の激しい曲です。ピアノという楽器にも「嵐」が起きています。ガスの膨張や放出が起きているようなペダルの増減効果に始まって、次第に内部の打弦に移行していくと、まるで爆発の連鎖のようです。下の譜例のような楽譜を立ったまま、弦の奥の方まで腕を伸ばして演奏します。




 矢印きの音符は符点2分音符や 2分音符の長さで、左右の指で反対方向に弦をグリッサンドします。四角い音符では、その音域の弦を平手で叩きます。E はハンマーの手前の弦を、T はハンマーの奥の弦を使うことを意味しています。
 ペダルは立ったままで何ページも前から踏みっぱなしです。弦全体、楽器全体が鳴り響き、宇宙において無音の現象や目に鮮やかな色合いが音に変わることを実感できるでしょう。聴く人、見る人にとっては、息を飲むような驚きの連続であると思います。
 内部奏法を多用したことについてシサスクは、「それは宇宙の音楽だからであって、アボリジニの音楽だからというわけではありません。星そのものに導かれ、私はピアノの中に入ってしまいたくなったのです。」と話しています。私はこの曲を弾く時、いつもこの言葉を思い出します。

 ほ座の最後は上の譜例のように、弦の響いている間にファ F とド C の重音を残すように(現在の出版譜には without sound 、つまり音を出さないようにして、鍵盤を押さえるの意)と書かれており、この重音は次第に色褪せ、アルゴ船座の終曲、りゅうこつ座へと切れ目なく繋がっていきます。




 

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