42. かじき座 Dorado

旗魚座  Dorado

霧の中の悦び  Delight in the Mist


 赤く染まった星雲の切れ目、画像のほぼ中央に超新星 Supernova 1987A(SN 1987A)が姿を見せています。下の画像はその拡大画像なので見比べてください。見つかりましたか?


 1987年2月23日、160000光年の彼方にこの超新星 1987Aが発見されました。この星がどのような経緯を経て現在の形になっているのか、さまざまな研究と推測が続けられているようですが、まだ謎の多い天体です。超新星の明るさは同年の 5月にピークを迎えて 3等級となり、以後、減光しましたが、10ヶ月間は肉眼で見ることができたそうです。肉眼で観測された超新星としては、ケプラーの超新星 SN1604(へびつかい座、20000光年/1604年)以来の大発見だったようです。



 これは散光星雲 NGC 2070「タランチュラ(毒ぐも)星雲」です。超新星 1987Aはこのタランチュラ星雲の中心部の左側にあります。タランチュラ星雲では、巨大な星が活発に生まれています。


 タランチュラ星雲の中心付近にある散開星団 R136は、巨星や超巨星がひしめく 100万歳から 200万歳という若い星団で、タランチュラ星雲の中で最も巨大です。星雲は、ここからの強力な風と紫外線放射によって形作られているのです。



 超新星1987A 、タランチュラ星雲 NGC 2070と見てきましたが、これらはすべて、かじき座の領域にある大マゼラン銀河の中にあります。大マゼラン銀河は私たちの銀河系に一番近い銀河です。この画像中央下にピンクがかったタランチュラ星雲が写っています。

 かじき座はこのように奥の深い「大マゼラン銀河」を含む、とても重要な星座で、シサスクも自筆の星座図の中に SMP(エストニア語で大マゼラン銀河)に加え、タランテラ星雲 2070、超新星 SN 1987Aもしっかり記しています。





 ここに書き込まれているその他の銀河 1672と 1566も見てみましょう。




 どちらの銀河も非常にゴージャスで、巨大なブラックホールを有していると考えられています。NGC 1672は 75000光年にある棒渦巻銀河、NGC 1566は 4000万光年にある中規模の渦巻銀河です。


 シサスクのかじき座のイメージは「霧の中の悦び」。

 このイメージがどこからきているのか、NASAの画像に出会うまで曖昧でしたが、はっきりしました。霧は大マゼラン銀河のことではないでしょうか。肉眼で見えるマゼラン銀河は軽やかな雲のようですが、拡大すると濃霧のように密集した星の集まりです。その中を潜り抜けるように見ていくと、煌く巨大な星たち、そして超新星にまで出会うことができます。発見は思わぬ時、思わぬ場所であればあるほど、その悦びが増すでしょう。

 シサスクのかじき座の音楽は、宇宙がいつでも、われわれを悦ばせてくれる存在であることを教えてくれています。霧の向こうで発見されるのを待っている星は、無数にあることでしょう。

 さいだん座の最後の響きから明るい視界が開けるかのように始まるかじき座は、俊敏かつパワフルにという指示がある特殊なペダリングが独特な効果を生み出します。踏み替え時にピアノ内部のすべての弦が空気を震わせ、星雲の動きを感じさせるかのようです。高音域で繰り返される転がるような音型は、超新星 1987Aのリングが回転するようでもあります。またハ調のシンプルな響きがこれほどにも広がりや奥行きを感じさせるものかと驚かされます。

 2015年にシサスクの作品を集めて行われたシサスク来日公演では、作曲者本人がアンコールにこのかじき座を演奏しました。(楽譜にはこの曲を単独で演奏しても構わないと記されています。)どこまでも伸びていく響き、透明感を持ちながらもほんのり温かい音色は、聴衆の心を一瞬にして掴みとり、束の間、遥かなる宇宙へと旅立たせてくれました。忘れ得ぬ彼の演奏の一つです。



コメント