43. とけい座 Horologium

時計座  Horologium

膨張  Expansion


 とけい座の領域にある渦巻銀河 NGC 1433 は 3200万光年にあり、中心にはブラックホールがあります。ブラックホールは周囲の物質が大量に吸い込まれると同時にガスが放出され、高温に熱せられて明るく輝いています。


 シサスクのとけい座のイメージは「膨張」。

 膨張というとやはり「膨張する宇宙」、つまりビッグバン理論の話を避けて通ることはできないかと思います。シサスクがこの曲を書いた頃にわかっていたことは、宇宙はかつては小さな火の玉であったこと、そしてビッグバン(大爆発)が起きて以来、宇宙が膨張し続けているということです。難しい説明は割愛しますが、これはいまや想像の範囲ではなく、さまざまな研究による裏付けがあっての結論です。
 2001年には NASAが打ち上げたウィルソン・マイクロ波異方性探査機による観測により、宇宙年齢は 137億年であり、少なくとも直径 274億光年以上の広がりを持っていることがわかりました。




The Sloan Great Wall: Largest Known Structure? 

 これは 10億光年以内の宇宙地図で、グレーの模様は銀河の分布です。天の川銀河から垂直の方向、夜空の 4分の1の方向を観測しているので、このような範囲になっています。広大な範囲なので銀河の一つ一つは点のような小ささ、それらが集まって雲のように見えています。銀河がそのようにつながって見える部分を「フィラメント構造」といい、銀河のない部分を「ボイド」といいます。ボイドとは「泡」のことで、このようなフィラメントとボイドのパターンは「宇宙の泡構造」あるいは「宇宙の大規模構造」と呼ばれています。
 この図にはシャープレー超銀河団(ケンタウルス座)、スローン・グレートウォール(銀河が形作る巨大ウォール)、とけい座レチクル座超銀河団、うお座くじら座超銀河団が記されていますが、銀河群や銀河団が集まって形成される超銀河団はこの他にもあります。
 宇宙の膨張はいつまで続くのか。膨張は加速していることがわかっています。膨張すれば宇宙空間の密度、エネルギーは薄まると考えられますが、薄まるはずのエネルギーは不思議なことに逆に増えているといいます。研究者たちはこの正体不明のエネルギーを「暗黒エネルギー」と名づけ、謎の解明に立ち向かっています。


 シサスクのとけい座の音楽は、かじき座でも見られたペダルを踏むことによる弦の共鳴から始まります。はじめの 12小節間には鍵盤で弾く音はありません。pp から、わずかずつクレッシェンドし続け、波線を描くような音楽は銀河のフィラメント(糸)のようにつながり、重なり合い、まるで宇宙が膨張していくかのようです。ff に達すると、光、そして見えない暗黒エネルギーのうねるようなゆらぎが生み出されます。加速する膨張の末には果たして・・。

 次の曲は、とけい座超銀河団として繋がるレチクル座。《南半球の星空》の巡礼もいよいよ最終です。







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