コールサック & 宝石箱 Coalsack & Jewel Box

 石炭袋  The Coalsack
宝石箱  The Jewel Box


 右側に十字架のが見えています。コールサック Coalsack(石炭袋)と宝石箱 The Jewel Box という名の天体は、みなみじゅうじ座の領域にあります。コールサックは十字架の左下にある暗黒星雲で、その名の通り、黒い雲のように写っています。この場所は天の川のひときわ明るい部分なはずですが、この暗黒星雲が星の光を広範囲に消してしまっているのです。

 宝石箱はどこにあるのでしょう? 




 
 オレンジの矢印で示した点が宝石箱です。拡大してみましょう。



 宝石箱は NGC 4755というナンバーを持つ散開星団で、6400光年にあります。まばゆいばかりの宝石の箱の中には 100個を超える星が集まっています。中央にオレンジに輝く赤色超巨星は、宝の価値を高めているかのようです。

 シサスクのコールサックの音楽は、前曲の「小マゼラン銀河」の最後のフレーズを受け継ぐように再度、繰り返すことで始まり、内部奏法が宇宙的で、美しい響きであることを感じさせてくれる作品です。




 2段目の冒頭、四角いバツ印は内部の何本かの弦を手の平で、深く響くのを感じながら打ちます。続く3小節は、ド# の弦をはじいてから、上段辺りの音の場所 から弦をグリッサンドします。の位置は弦のはじく場所を表していて、遠くから手前へと変えていきます。何も見えない真っ暗な暗黒星雲に星の誕生の兆しがあること、まだ見えないけれど存在するものが不思議な音色で伝わってきます。

 宝石箱の音楽はたった 10小節しかありませんが、そのこと自体からも大切な小箱を手にとって蓋を開く瞬間のイメージや、望遠鏡の小さなレンズで拡大して見るイメージが浮かんできます。「コールサック」の内部奏法の響きを残したまま始まるこの曲は、望遠鏡で宝石箱を探しているかのようでもあり、6小節目のアルペジョは見つかった瞬間かもしれません。




 トリルは煌めきに出会えたことに震えるような喜びを感じているようでもあります。最後の下降するアルペジョは流れ星?  宇宙空間の遠近も表現されています。煌めく一音で最後に表したのは、宝石箱で一つだけオレンジ色に輝く赤色超巨星ではないでしょうか。


 前回から見てきた大小のマゼラン銀河、コールサック、宝石箱は、実は『銀河幻想曲』という 4つの組曲になっていて、りゅうこつ座きょしちょう座の間に挿入されています。
 みなみじゅうじ座からりゅうこつ座の 1等星カノープスへの壮観な眺めについては、シサスク自筆の星座図で既に見ていただきましたが、マゼラン銀河とみなみじゅうじ座は限られた領域にとどまらず、南半球の星空を語る上で、なくてはならない天体です。
 星座をどのような順番に並べるのか、そしてこの『銀河幻想曲』をどこに挿入させるのか、シサスクは詳細な天文学的知識をもとに考えています。そして何より素晴らしいのは、彼自身、毎晩のように天体望遠鏡で星たちを観測していることです。このような作曲家がこれまでいたでしょうか。


  これで「南半球の星空」の連載は終わりです。次回は「赤道の星空」へ。
 




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