鶴座 Grus
忍び寄る狼 The Creeping Wolf
これはヨーロッパ南天天文台(ESO)がつる座の領域 530光年にある恒星のペアと4000万光年にある棒渦巻銀河を捉えた画像です。周囲を赤く染めている中央の星が赤色巨星 π1 、そのすぐ左隣に重なるように淡いピンクの光を放っているのが π2 、そして π1の右に青みがかった棒渦巻銀河 IC 5201が写し出されています。 IC 5201の大きな画像もアップしておきましょう。
この銀河は英国と南アフリカの科学者が 1900年にケープタウン天文台の望遠鏡を覗いて見つけました。シサスクも望遠鏡で実際に見たことでしょう。
シサスクはつる座の星座図に細かい情報を書き込んでいます。しかしこの中で NASAや ESOの画像があるのは現在のところ、上図の丸で囲んだ天体だけとなっています。青い丸で囲んだ 4つの銀河(NGC 7590はシサスクが書き忘れたと思われます)は「つる座の四重銀河」Grus Quartetと呼ばれています。NGC 7582、7590、7599の 3つで Grus Tripletと呼ぶ場合もあるようです。この Quartetや Tripletの画像は検索すると個人サイトで優れた画像がヒットしますので、ぜひ探してみてください。
NGC 7582(ESO)
「つる座の四重銀河」の一つ NGC 7582 は 7000万光年にある超大質量ブラックホールを持つ渦巻銀河です。これはチリ、アタカマ砂漠のパラナル天文台にある ESOの VLT(口径 8.2mの超大型望遠鏡)に搭載された超広視野面分光装置 MUSE(ミューズ)を使用して得られた画像です。右の画像のオレンジ色に光る部分は星形成活動が活発な領域、青い光はこの銀河の中心に存在する活動銀河核 AGN; active galactic nucleus から流出する物質、放出される強力な風を示しています。左の画像は活動銀河核を取り囲むように渦巻くガスが銀河の構造を保護している様子を捉えています。
シサスクはつる座の星座図に細かい情報を書き込んでいます。しかしこの中で NASAや ESOの画像があるのは現在のところ、上図の丸で囲んだ天体だけとなっています。青い丸で囲んだ 4つの銀河(NGC 7590はシサスクが書き忘れたと思われます)は「つる座の四重銀河」Grus Quartetと呼ばれています。NGC 7582、7590、7599の 3つで Grus Tripletと呼ぶ場合もあるようです。この Quartetや Tripletの画像は検索すると個人サイトで優れた画像がヒットしますので、ぜひ探してみてください。
NGC 7582(ESO)
つる座の方向 4000万光年にある渦巻銀河 NGC 7424(グランド・スパイラル銀河)は天の川銀河とほぼ同じ大きさ(10万光年)です。銀河の腕の中には超新星 2001ig が発見されています。
2400万光年にある棒渦巻銀河 NGC 7496のこの画像には、ハッブル宇宙望遠鏡、南米チリのアルマ望遠鏡(日本を含む 22の国と地域が協力して運用する電波望遠鏡)による観測の成果も生かされています。
シサスクのつる座のイメージは「忍び寄る狼」。なぜ「忍び寄る」狼なのか。
■ 8月1日23時、北緯 40度の南の地平線上にさそり座とつる座の一部が姿を現します。■ 10月1日23時、北緯 40度の南の地平線上につる座とほうおう座が隣り合うように接近して姿を現します。
シサスクはさそり座とつる座のこうした関係を音楽で表しています。さそり座とつる座の 2つの曲は同じテンポが指定され、冒頭の曲想が類似しているのです。蠍も狼も夜に忍び寄ってくるような生き物です。北半球ではこの 2つの星座は低緯度にあって姿が見えにくいことからも忍び寄るというイメージがぴったりですね。
つる座とほうおう座の関係はどうでしょう。シサスクがほうおう座に「動揺する蝶」のイメージを与えていますが、つる座「忍び寄る狼」に動揺した蝶なのかもしれません。
つる座にはぼうえんきょう座に現れた「トゥルクの歌」(譜例1)が再現します。
【譜例1】
音価は倍になって再現されています。
ところで ぼうえんきょう座のテーマ(譜例2)は、「トゥルクの歌」の第1小節と同じでした。【譜例2】 しかしそれだけではなかったのです。よく見たら うお座のテーマ「星空への讃歌」がどこから来たのか閃いてしまいました。上の譜を鏡に映してみるとどうなるでしょう。
うお座のテーマになったでしょう? 天体は望遠鏡で覗くと上下左右逆に見えるのです! そして音価が拡大されてのテーマとなっています。
つる座に現れる「トゥルクの歌」そしてうお座の「星空への讃歌」が、拡大した音価になっているのはなぜだと思いますか? シサスクのユーモアが光っています。望遠鏡で覗いたらそれぞれの星座領域が大きく見えると言いたいのでしょう! でもシサスクが望遠鏡と関連づけたわけはそれだけではありません。ある時、南半球の全天星座図を見ていて気がつきました。南西の端に位置するぼうえんきょう座からつる座、天頂方向に注目すると、その帯(下の【図1】の青線の内側) には
2400万光年にある棒渦巻銀河 NGC 7496のこの画像には、ハッブル宇宙望遠鏡、南米チリのアルマ望遠鏡(日本を含む 22の国と地域が協力して運用する電波望遠鏡)による観測の成果も生かされています。
シサスクのつる座のイメージは「忍び寄る狼」。
なぜ「忍び寄る」狼なのか。
■ 8月1日23時、北緯 40度の南の地平線上にさそり座とつる座の一部が姿を現します。
■ 10月1日23時、北緯 40度の南の地平線上につる座とほうおう座が隣り合うように接近して姿を現します。
シサスクはさそり座とつる座のこうした関係を音楽で表しています。さそり座とつる座の 2つの曲は同じテンポが指定され、冒頭の曲想が類似しているのです。蠍も狼も夜に忍び寄ってくるような生き物です。北半球ではこの 2つの星座は低緯度にあって姿が見えにくいことからも忍び寄るというイメージがぴったりですね。
つる座とほうおう座の関係はどうでしょう。シサスクがほうおう座に「動揺する蝶」のイメージを与えていますが、つる座「忍び寄る狼」に動揺した蝶なのかもしれません。
つる座にはぼうえんきょう座に現れた「トゥルクの歌」(譜例1)が再現します。
【譜例1】
音価は倍になって再現されています。

ところで ぼうえんきょう座のテーマ(譜例2)は、「トゥルクの歌」の第1小節と同じでした。
【譜例2】
しかしそれだけではなかったのです。よく見たら うお座のテーマ「星空への讃歌」がどこから来たのか閃いてしまいました。上の譜を鏡に映してみるとどうなるでしょう。
うお座のテーマになったでしょう? 天体は望遠鏡で覗くと上下左右逆に見えるのです! そして音価が拡大されてのテーマとなっています。
つる座に現れる「トゥルクの歌」そしてうお座の「星空への讃歌」が、拡大した音価になっているのはなぜだと思いますか? シサスクのユーモアが光っています。望遠鏡で覗いたらそれぞれの星座領域が大きく見えると言いたいのでしょう! でもシサスクが望遠鏡と関連づけたわけはそれだけではありません。ある時、南半球の全天星座図を見ていて気がつきました。南西の端に位置するぼうえんきょう座からつる座、天頂方向に注目すると、その帯(下の【図1】の青線の内側) には
ぼうえんきょう座 Telescopeつる座 Craneみなみのうお座 S. Fishうお座 Fishesプレアデス星団(おうし座) Pleiadesペルセウス座 Perseusカペラ(ぎょしゃ座) Capella
などが並んでいます。シサスクは星座の位置関係から曲順を決めていたことがわかります。彼はそれをサブタイトルや音楽から気づかせようとしていたのです。望遠鏡(座)をうまく利用したのも彼らしいですね。
つる座の α星 アルナイルはアラビア語で「(魚の尾の)輝くもの」の意。つる座はかつてみなみのうお座の一部でした。このチャートには入り切りませんでしたが、ぼうえんきょう座のすぐ南にはさそり座やじょうぎ座があります。プレアデス星団の背後に息づく生命、じょうぎ座(クイッティ・フイッティ)はどこに行き着くのでしょうか。ストーリーは『北極の星空』へと繋がっていきます。なお、この帯を斜めに横切っている白い点線は「黄道」Ecliptic です。黄道十二星座であるやぎ、みずがめ、うお、おひつじ、おうしが乗っています。ぼうえんきょう座から見るここの眺めは大変に素晴らしいものです。
つる座の「トゥルクの歌」再現の前には、らしんばん座の曲に現れた 7つの夢の一つ「英雄」の夢のテーマ(譜例3)も挿入されています。英雄は太陽の通る道「黄道」を眩いほどに堂々と夢に向かって歩いているでしょうか。「祖国のために」 Pro Patria を原曲とするこのテーマによって、当時、フィンランドのトゥルクに暮らしていたシサスクは、故郷の星空にも望遠鏡を向けたくなったかもしれません。ぼうえんきょう座とまっすぐに向かい合うぎょしゃ座の星カペラは、エストニアでは一年中、沈まない星です。
【譜例3】
【譜例4】
ぼうえんきょう座に関連し、NASAや ESOの画像とともに超大型望遠鏡、電波望遠鏡、宇宙望遠鏡についてもあえて触れてみましたが、自ら観測を続けていたシサスクは、望遠鏡の高度な進化にも目を見張っていたに違いありません。
ハッブル宇宙望遠鏡(Wikipedia)
ここで大変悲しいお知らせがあります。 2022年 12月17日、ウルマス・シサスク氏は星空へと旅立たれました。62歳の生涯でした。 心よりご冥福をお祈りいたします。
これまで綴ってきた内容について、シサスクにいつか確かめたいと思っていたこともあり、二度と会話を交わすことができなくなったことはあまりにも残念でなりません。 「銀河巡礼〜すべての星座たちへ」では、シサスクが望遠鏡で何を見たのか、そして音楽で何を伝えたかったのかを最後まで探っていきます。これは私がいま出来る、彼への敬意と感謝の表現でもあります。
「トゥルクの歌」を奏でるシサスクの幸せな表情を偲び、つる座の最後のページを追悼として、心に浮かべていただけたらと思います。明るいハ長調で終わっています。シサスクが大好きな音楽を捧げるほど憧れた宇宙。いま、彼が心の底から星たちと楽しんでいることを祈るばかりです。
2016年1月12日 20時20分フィンランド、トゥルクにて作曲
ぼうえんきょう座 Telescope
つる座 Crane
みなみのうお座 S. Fish
うお座 Fishes
プレアデス星団(おうし座) Pleiades
ペルセウス座 Perseus
カペラ(ぎょしゃ座) Capella
などが並んでいます。シサスクは星座の位置関係から曲順を決めていたことがわかります。彼はそれをサブタイトルや音楽から気づかせようとしていたのです。望遠鏡(座)をうまく利用したのも彼らしいですね。
つる座の α星 アルナイルはアラビア語で「(魚の尾の)輝くもの」の意。つる座はかつてみなみのうお座の一部でした。このチャートには入り切りませんでしたが、ぼうえんきょう座のすぐ南にはさそり座やじょうぎ座があります。プレアデス星団の背後に息づく生命、じょうぎ座(クイッティ・フイッティ)はどこに行き着くのでしょうか。ストーリーは『北極の星空』へと繋がっていきます。なお、この帯を斜めに横切っている白い点線は「黄道」Ecliptic です。黄道十二星座であるやぎ、みずがめ、うお、おひつじ、おうしが乗っています。ぼうえんきょう座から見るここの眺めは大変に素晴らしいものです。
つる座の「トゥルクの歌」再現の前には、らしんばん座の曲に現れた 7つの夢の一つ「英雄」の夢のテーマ(譜例3)も挿入されています。英雄は太陽の通る道「黄道」を眩いほどに堂々と夢に向かって歩いているでしょうか。「祖国のために」 Pro Patria を原曲とするこのテーマによって、当時、フィンランドのトゥルクに暮らしていたシサスクは、故郷の星空にも望遠鏡を向けたくなったかもしれません。ぼうえんきょう座とまっすぐに向かい合うぎょしゃ座の星カペラは、エストニアでは一年中、沈まない星です。
【譜例3】
【譜例4】
ぼうえんきょう座に関連し、NASAや ESOの画像とともに超大型望遠鏡、電波望遠鏡、宇宙望遠鏡についてもあえて触れてみましたが、自ら観測を続けていたシサスクは、望遠鏡の高度な進化にも目を見張っていたに違いありません。
ここで大変悲しいお知らせがあります。
2022年 12月17日、ウルマス・シサスク氏は星空へと旅立たれました。62歳の生涯でした。
心よりご冥福をお祈りいたします。
これまで綴ってきた内容について、シサスクにいつか確かめたいと思っていたこともあり、二度と会話を交わすことができなくなったことはあまりにも残念でなりません。
「銀河巡礼〜すべての星座たちへ」では、シサスクが望遠鏡で何を見たのか、そして音楽で何を伝えたかったのかを最後まで探っていきます。これは私がいま出来る、彼への敬意と感謝の表現でもあります。
「トゥルクの歌」を奏でるシサスクの幸せな表情を偲び、つる座の最後のページを追悼として、心に浮かべていただけたらと思います。明るいハ長調で終わっています。シサスクが大好きな音楽を捧げるほど憧れた宇宙。いま、彼が心の底から星たちと楽しんでいることを祈るばかりです。
2016年1月12日 20時20分
フィンランド、トゥルクにて作曲
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